藤谷康晴個展「ドローイング一族・現代の歌舞伎者たち」

HAPPENINGText: Ayumi Yakura

ディテールに目を向けながら、展示された16作品(シリーズは全23作品)を見比べると、作品毎にまるで異なるドローイングが施され、各々が思い思いのモチベーションで振る舞う一族の多様性が、ユーモアやポップ感を伴って表現されている事が分かる。

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「都市空間に隠された縦横無尽の逃走経路・その男は知っている DAISHICHI」© 藤谷康晴, 2015年, 780 x 560 mm, 和紙に水彩顔料

例えば、本展のメインビジュアルにもなっている「DAISHICHI」の場合は、上が細密な描線、下が黒塗りに分けられた顔面を太い白線が縦横無尽に走り、羽織りには黒い横線が濃密に波打ち、元絵の「市川高麗蔵の志賀大七図」と同様にモノトーンを基調としながらも、線のバリエーションを楽しめる構成となっている。頭髪では赤・青・黄・緑の原色が主張し、着物の色彩と細く波打つ白線が全体を調和させている。

また、ミートラウンジの奥に展示されている「HACHIHEIJI」(元絵は「谷村虎蔵の鷲塚八平次図」)は、六角形の亀甲文様が描かれた胴体に、藤谷曰く『音楽のリフのように繰り返し』連続した穴が穿たれ(描かれ)ている。肩にかかる羽織はもはや衣服の原型を留めず、赤と青の平面的な格子となって重ねられている。頭部は胴体の補色で、幾何学的な胴体とは対照的な筆致の線が漂い、描き分けによる均衡が画面に緊張感を与えている。

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「頭に沸き立つ黒いアイディア・企てに余念がない男 HACHIHEIJI」© 藤谷康晴, 2017年, 780 x 560 mm, 和紙に水彩顔料

藤谷によると、ドローイングは人物像を前提として描いたのではなく、例えば、音の重なりで生まれる「音楽」や、材質の空間配置から成る「建築物」のように、『破綻せずに一つの表現個体として美しく存在しているもの』を、ドローイングで導き出した結果だという。

組み合わせたドローイングの調和が対象に個性を与え、平面にテクスチャーのような肌質感的表情を与える。そこに顔や手が加われば人間になるのであり、結果として、現実離れした肉体と風貌を持ちながらも過剰な存在感を持つ人物像が生み落とされるのだ。ドローイングを描き続けてきた藤谷ならではの表現のバリエーションが、本シリーズの世界感を豊かにしている。

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「頭に沸き立つ黒いアイディア・企てに余念がない男 HACHIHEIJI」2017年/「植物の声に耳を傾けて未知の線を採取する・神経質な紋様おたく SANAI」2017年/「この世の均衡はトライアングル・だから日々遊び SHIGENOI」2015年/「点と点を結ぶ漢・仲立ちの SADANOSHIN」2015年, © 藤谷康晴, 780 x 560 mm, 和紙に水彩顔料, クロスホテル札幌

藤谷のドローイングの面白さは、例えば天井の染みや雲の形が『何かの模様に見えてしまう』ような、鑑賞者の「幻視力」が引き出される点にもあり、『虚構を幻視する事』から生まれる認識の多様性は、彼の創作の根底にある「八百万の神々の思想」へ通じる。本展を通して藤谷は、『虚構も実体も実質であるという認識が現代の人類に必要とされる』と提言している。

※新シリーズ「ドローイング一族・現代の歌舞伎者たち」は全23作品から成り、本展では16作品(+旧作3点)が展示されています。未公開作品を展覧する為、会期中に作品の入替が行われる場合があります。

MACHINAKA ART-X edition vol.25
藤谷康晴 個展「ドローイング一族・現代の歌舞伎者たち」

会期:2017年7月5日(水)〜9月30日(土)
会場:クロスホテル札幌 ロビー・ミートラウンジ
住所:札幌市中央区北2西2
主催:クロスホテル札幌(企画課 011-272-0051)
キュレーション:クラークギャラリー+SHIFT
協力:まちなかアート
https://www.crosshotel.com/sapporo/

Text: Ayumi Yakura
Photos: Courtesy of the artist, © Yasuharu Fujiya

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