アンドレアス・グルースリッヒ

PEOPLEText: Kiyohide Hayashi

ベルリンが現代アートの中心地なのはどうしてだろうか。その理由に多くのギャラリーがあることが挙げられるだろう。ベルリンには無数のギャラリーがあり、それはアーティストや美術関係者を惹き付けている。そんなベルリンには近年の経済不況の暗雲が立込めている。主要なギャラリーが閉廊する話も出てくるなど、この街の美術市場の未来は明るくない。そして多くの美術関係者は不安を抱えている。

だが、このような逆境の中でも、それをものともせず新しいギャラリーが誕生している。その中には若々しいエネルギーだけでなく、長期的なヴィジョンを感じさせるものがある。つまり、逆境を切り抜けて伸し上がる可能性を感じさせるギャラリーがあるのだ。そのギャラリーとは2012年に設立されたアンドレアス・コンテンポラリー

Andreas Greusslich
Portrait of Andreas Greusslich © Martina Magno

今回はアンドレアス・コンテンポラリーを経営するギャラリスト、アンドレアス・グルースリッヒに、今行っていること、そして将来のヴィジョンなどについて話を伺うことにした。

なぜギャラリストになろうとしたのでしょうか?

私の個人的な性格がギャラリストへと向かわせました。私はアーティストになることからキャリアを始めています。私にとっての芸術の問題が、アートやアート作品と関わる人々の必要性や願望であることに気付きました。そこで人々が出会い、話し合えるプラットフォームを用意しました。私の使命は、アーティストのためにプラットフォームを提供し、アートに関わる人々を支援することなのです。このようにしてアーティスト、アートを取り巻く人々、アートの専門家、そしてアート作品といったアートに関わる全てのものに携わって以来、ギャラリストになることを決断しました。私は繋がりが好きなのです。

以前アーティストだったそうですが、アーティストが作品を通して表現をするように、展示を通して何か表現したいですか?

私は展示を通して文脈的な意味を生み出すことに優れたキュレーターではありません。私にとっては、面白い、発想が素晴らしい作品が重要であり、素晴らしいアーティストと共に働き、それについて友人たちと話すことが重要なのです。時には面白いやり方で、様々なアーティストを一緒に展示することを楽しんでいます。それだけです。

ギャラリーの歴史について話してもらえませんか?

ギャラリーの歴史は私個人の展開に関連しています。美術大学の学生だったことは、大学時代の友人や彼らの作品が私の芸術的なアプローチに強く影響を及ぼしています。その後15人ほどのメンバーと共にスペースを構え、そこで私はオープンスタジオを企画しました。これは非営利スペース「クンストフェアアイン(*)・インガン」の発足へと繋がり、そして私は美術作品を制作することを止めました。

ベルリンを代表するギャラリーに数年間務めつつ、スペースの運営を行い、そしてビジネスプログラムの修士課程を修了した後、グルースリッヒ・コンテンポラリーを始めました。そして2012年の9月から、正式に美術専門のスペースとしてギャラリーの運営を始めています。

*ドイツ語で「Kunstverein」は「美術協会」の意味を表す文化組織。多くは半公共的な役割を担い、ドイツでは美術館に並んで商業美術とは違う立場で美術界を支えている。

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Installation view: Iván Abreu “Multiple Vortex Tornado”, 2013 © Ivan Abreu, Greusslich Contemporary

クンストフェアアイン・インガンからグルースリッヒ・コンテンポラリーへの変化について説明してもらえませんか?そこではアート作品を売る必要がありますよね?

もちろん。ですが美術市場の現在の状況ではアーティストのキャリアを支援することが最善の方法です。私はそれが決定的なことであり、アートフェアでアーティストを紹介することだと思います。アートフェアは素晴らしいアートを探し求める専門家や関係者などにとって、最も国際的なプラットフォームです。非営利組織はこの種類のプラットフォームに参加できず、通常ではアーティストと長期的な共同作業ができません。ギャラリーは美術界で非常に重要なのです。

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Installation view, “Matti Isan Blind + Vanessa Farfán”, 2013, Greusslich Contemporary

あなたの生活がアートに影響を受けていることを知っています。そして私が聞きたいのは、まさにこうした「情熱」や「ライデンシャフト」(*)です。

実際にクンストフェアアイン・インガンを設立した後、自宅で展覧会を行っていました。生活空間はアートのために実際に制限されてから、私は犠牲を捧げ、情熱を見せました。ですが正直に言えば、とても楽しかったです。そして私の情熱を個人的なものから、より多くの人に向き合えるように専門的なものへと変えました。(現在では展示を自宅ではなく展示専門の空間で行っている)。ギャラリーは簡単な仕事ではありませんが、さらに多くの人にアーティストや作品を知ってもらえます。

*ドイツ語で「ライデン」が「苦しみ」を表すため、「ライデンシャフト」は「情熱」を表すと同時に、そのために「犠牲を払う(苦しむ)」という意味も併せ持つ。

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