アブソルート・アート・アワード 2013

HAPPENINGText: Victor Moreno

スウェーデンの最も有名なスピリッツブランドであるアブソルートが、アンディ・ウォーホル、キース・ヘリング、ダミアン・ハーストやアニー・リーボヴィッツらの貢献によって高められた創造性への長期的献身と30年に渡る芸術的革新を記念し、2009年に設立したアブソルート・アート・アワード。これまでにケレン・シター(2009年)、リクリット・ティラヴァーニャ(2010年)、そして2011年にはアンリ・サラが受賞している。2012年度、アブソルートはアワードを次のステージに進めるため、賞を取りやめた。そしてその試みは、アートにおける国際的進取性に富んだアブソルート社の1部署であるアブソルート・アート・ビュローが新しいアワードの形を設置するという形で結実した。アートの実践だけでなく、調査と批評理論の発展も表彰しようという意図のもと、既存の現代美術家部門に、新たに芸術著作部門が追加されたのである。ブラジル人レナータ・ルーカス(1971年生まれ、リベイラン・プレト出身)とキューバ系アメリカ人ココ・フスコ(1960年生まれ、ニューヨーク出身)がそれぞれ作品部門と論文部門のアワードを獲得、受賞者にこの場で祝辞を述べたい。

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2013年度最終候補者名簿には、各カテゴリーに5名がノミネートされた。レナータ・ルーカスの作品は、構築環境と我々の知覚や社会がそこから影響を受ける様の境界を押し広げることで、空間に関する規定の定義に問題を提起している。彼女の企画案は、リオ・デ・ジャネイロにある新しい港に分裂・分散的な新しいミュージアムを作るというものだ。『空想のビジョンについて書く様にとのことだったけれど、それは非常に皮肉に思えたの。私はここ13年間、介入する予定だった場所に関して現実と強く繋がって作業して来た。普段は作業予定の場所にかなり前から入って、そこがどんな感じかを理解するために、現地で普通の生活を送ってみるの。構築された空間はまさしく、その様に存在する事を可能にする歴史的遺物の結果だと思うから。風景を見るとそれが築かれた時という異なる時間に触れる事ができるし、どれが背後にあったのかを見る事ができる。言い換えれば、物事はこうやって形作られているわけ。別々にではなくて、ある特定のグループがその方向へ編成を進める力を持っていたのだから。もし歴史が異なっていれば、全く異なる種類の環境があると思うわ。要するに、自身のコントロールを遥かに越えて、私達の振る舞いがまさに建築的構造である様や、私たちがそれに反応する様子、人はある種のパターンに沿って行動する様に規定付けられているということに気がついたの。誰もなにもつくり出していなくて、私たちはただ既にある状態を利用してアイディアを実行しているだけなのだというアイロニーがそこにはあるわ。』

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Renata Lucas

このような抽象的な状況で、どのように企画案を書く事ができたのか?アブソルートアワードの受賞はどの様に影響すると思うか?をレナータ・ルーカスに質問してみた。『さっき述べた作業方法もあって、空想のビジョンを描くのは私に合う仕事の仕方ではおそらくなかったけど、やってみたわ。そして、既存の建築場面の断片を用いて実施されうる具体的なミュージアムを非常に一般的な言葉で書くべきだと気づいた。賞が獲得できるかどうか分からなかったけれど、もしブラジルで可能性を得られたら、この港区域で考えていたアイディアのうちの幾つかを実現できると思った。そのうちの一つのミュージアムが、サンティアゴ・カラトラーヴァによるリオ・デ・ジャネイロの「明日のミュージアム」だったわ。そう、それはまるで、ええ、まるでプロジェクトの象徴的首都みたいで、まるで60年代のニューヨークみたいね、アートがどのように役立つかを示していたわ。想像の中でこの港の架空ミュージアムを作る可能性を組み合わせたの。だけどこれは一つの可能性であって、それをブラジルでやるかヨーロッパでやるか、あるいはどこか違う所でやるか定かでなかった。けどブラジルでやる事を願っていたわ。ブラジルは変化を試みているし、空間管理の観点で非常にフレキシブルだから。夜から日中にかけて作業できるんだもの。この変化の空間は非常に重要なのだけれど、そうね、完全にオープンで素晴らしいのよ。』『アート作品を制作するのに一定の金額のお金は必要。なにかを展開するためにとても良いサポートよ。だからとても良かった。どこでも予算制限に直面している訳だから。私は主に美術機構と仕事しているけど、実験には沢山のスペースがあるのに予算が限られている。それがこのシステムの一番悪い所ね。私たちは空間と予算とでにらめっこしているの 。成果はいつも理想と現実(勿論予算が通っての話)の間の交渉の結果。だからこのような支援に頼れるというのはとても重要なことなの。審査員チームとした素晴らしいディスカッションから沢山インスピレーションを受けた。他のアーティスト、ライター、キュレーターとご一緒できたのも良かったわ、とても面白いグループだったから。』

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Coco Fusco

論文部門の受賞者は、ビジュアル文化の博士号を取得し、ニューヨークのパーソンズ・ザ・ニュー・スクール・フォー・デザインの教授を務める、キューバ系アメリカ人ココ・フスコだ。フスコは女性と社会、戦争、政治と人種の関係を専門としている。アーティストとしては、電子メディア、投写やインターネット状にストリーミングされるライブパフォーマンスを組み合わせた大型のインスタレーションを制作している。『私のプロジェクトはキューバにおけるパフォーミングアートを扱っているわ。それは、アートを一種の触媒として用いることによる革命的振る舞いとはなにか、またそのコンセプトをどの様に変えるかという政治的問題に取り組むためのパフォーマティブな戦略をアーティストと活動家が展開する方法なの。例えばハバナのマレコン地区は、長きに渡りゲイや社会的・性的階級を廃した活動のための公衆ナイトクラブだった「ホテル・ナシオナル」に面している。このことはある点では市民の国との身体を使った戦いを象徴しているわ。』

権力を握るカストロの生死が危ぶまれる中、政治的な変化に晒されるキューバの現在の独特な情勢についてはどのように思うか?ココ・フスコに質問してみた。『私たちは過渡期にある。でも終わりは来る。革命の終わりは2018年、ラウル・カストロが権力の座から降りる事を約束したから。それは革命が始まってから実に59年のことになるわ。封鎖解除へのアメリカの要求がカストロを権力から退かせることになる。いったん退けば、政治システムはそれが何であるか不明瞭な段階へと進むでしょう。』

アメリカが指導的な地位を引き継ぐのでは?という問いにはこう答えてくれた。『ある人たちはそう考えているけど、私は本当にわからない。私が知っているのは、今あるものが長続きしないという事だけ。多くのキューバ人はただ生きて、出て行きたいだけ。でもそれは網の目をくぐる様なもので生きることはとても困難。一方で、ここに留まって改革を成し遂げたい若い大人たちもいる。彼らは、共に育ってきたものの終焉を見届け、良く感じられるなにかへの変遷を見たいと思っている。キューバには国立機関を通して仕事をする作家が沢山いて、一部の人は上手く行っているけれど、多くのアーティストはシステムとの合意に至っていない。また彼らは自身を教養家、著作家、アーティスト、音楽家とみなしていて、独立して働きたいと考えているわ。この考えは広まってきているし、デジタル技術によって国の干渉なしに仕事をすることができるようになった。国民投票への約束は無いの。再選挙のために、ある活動家たちは拘束力のある国民投票を求めているけれど、そんな保証は無いわ。わからないのよ。』

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ココ・フスコの企画書はヒットエンドランの要素を指摘している。その点について聞いてみた。
『束の間の要素、私は「ヒットエンドラン」の美学を語っているの。多くの権威主義体制の社会においては、束の間の迅速な同時代性がものごとを可能にするの。もし固定的な目的を作って留まるのであれば、より支配を受けやすいでしょうね。継続的影響力は誰かが認定しなくてはならないでしょう。もしなにかをするのであれば、プロポーザルの中で話したのだけど、例えば、アーティストのエンジェル・デルガドのパフォーマンスがあるわ。90年代に、彼はあるギャラリーに入ってキューバの共産党系日刊新聞であるグランマを床に貼って、その上にステートメントとして排便したの。その結果、彼は逮捕され、6ヶ月を監獄で過ごした。そうね、パフォーマンス中に当局はデルガドを取り押さえにこれなかったわ。その一瞬は終わってしまったから、そうでしょう?それは終わったの。このアクションの多くはおこって、そして過ぎて行く。当局が幾つかの事例に踏み込むまでにそれらは消えてしまうの。』
電子メディアと制作の試みについて、ココ・フスコに詳しく聞いてみた。
『アートプロジェクトのうちの多くのものにおいて、私はライブアクションと電気伝達との間の相互連結、異なる技術がライブアクションの媒体となる方法にフォーカスしているわ。とりわけテレビ・インターネット・ライブを通じて、会話とか、ライブのコンセプトとそのような経験がテクノロジーによってどのように拡張されるのかを見るみたいなことができる。』

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Winners announcement

今年のアート作品部門の最終候補者リストには、アンナ・ボヒジャン、セアスター・ゲイツ、ゴールディン+セネビー、レナータ・ルーカスとセス・プライス、論文部門はラース・バン・ラーセン、ルイス・カムニッツァー、ココ・フスコ、ヒト・スタヤル、ハムザ・ウォーカーらが名を連ねた。2万ユーロの賞金授与の他、受賞者には、作品部門には上限10万ユーロの新作制作費、論文部門には上限2万5千ユーロの出版及び販売支援が、夢のプロジェクトを実現する機会として与えられる。この支援は前提として、アブソルートのパートナー機関による寄付によって成り立っている。新しい賞の形態と共に、アブソルートは2013年のアートアワードのために新しい審査員を招集した。キャロリン・クリストフ=バカルギエフが審査委員長を務め、審査員にベアトリクス・ルフ、チェス・マルチネス、マリア・リンドという3名の優れたキュレーターと、著名なアーティストであるスーザン・ヒラーを加えた。

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アワードは年齢や地域によって限定される事無く、2013年には作品部門に75名、論文部門に15名のノミニーが挙がった。アブソルートは現在アートバーゼルの准パートナーで、アートバーゼル・カンヴァセーションズの代表パートナーである。アブソルートのホームタウンであるスウェーデンの首都、ストックホルムは、国際的なプレスや受賞者のホスト役を務めて来た美しい場所である。街の中心に、アブソルートはイベント、ミーティングやカンファレンス用のスペース、そしてアブソルートのクリエイティブな世界を表現するショールーム「アトリエ」を持っている。9月20日の朝にアワード受賞者の発表がなされたのもここにおいてであった。私たちは両受賞者と席につき、この日について話をする事ができた。

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Performance

そして夜には、スウェーデンのロイヤルファミリーが幾つか住居を構える街の北部の庭園の一つの中にある温室の様な美しい「バタフライ・ハウス」にて、ガラ・ディナーが行われた。ディナーは正に祝賀会で、クリエイティブな人々、アーティスト、著作家、キュレーターと、そして会社に近しい人達という、素晴らしい参加者との記念すべき夜となった。
結婚式さながら人々は集い、前菜、メインとデザートの合間にバンドが通路でパフォーマンスを行った。

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gelatin prints

写真の暗室を設置し、皆がポートレートを撮ってゼラチンシルバープリントを持ってかえる事ができるという面白いアイディアもあった。毎年このような優れた出席者を集め、現在会社の目玉となったこの独特な趣を創りだすことに成功したことは、アブソルートにとって功績である。

Absolut Art Award 2013
会期:2013年9月20日
会場:Atelier + Fjarilhuset
住所:Drottninggatan 4, 111 51 Stockholm
http://www.absolutartbureau.com

Text: Victor Moreno
Translation: Marie Okamura
Photos: Victor Moreno

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