1980年代から現在まで ロンドン サブカルチャーを旅する

HAPPENINGText: Fuyumi Saito

イギリスで人気のデパートチェーン、セルフリッジが経営していたセルフリッジ・ホテルの跡地で、ICAギャラリー(インスティテュート・オブ・コンテンポラリー・アート)の特別展が開催されている。 ポスト・パンクやゴシック・ロックと言われる1980年代から今日にいたるまでの、ロンドンで生まれ発展してきたクリエイティブを紹介する、展示というよりも「プロジェクト」と呼ぶにふさわしい企画である。

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ICA Off-Site: The Old Selfridges Hotel, 2013, Installation Shots, Credit: Mark Blower

ガランとしたコンクリートむき出しの会場には、56ものガラスケースがジュエリーショップのように並んでいる。デザイナーやギャラリー、アーティストたちの作品と生き様、活動の軌跡が、各々キュレーターと共にショーケースの中に繰り広げられ、圧倒的な世界感を披露する。

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ICA Off-Site: The Old Selfridges Hotel, Mudlarking Vitrine, curated by Nicola Tyson, Credit: Mark Blower

入って一番最初に覗き込むのは、写真家ニコラ・タイソンが撮影した写真が飾られる「マッドラーキング」のケース。日本語で川の泥の中から価値あるものを探し出す意味がある。テムズ川沿いで拾い集められた小さな古い骨やボトルのキャップ、クレイ・パイプ、陶器のかけらと、それらを探す2人の男性の写真は、アクセサリー・デザイナーのジュディ・ブレイムと靴とグラフィックのデザイナー、ジョン・ムーアの2人である。2人は1980年代後半、ロンドンのクラブシーンの中心で物作り集団として注目をあびたハウス・オブ・ビューティー&カルチャーのメンバーとして、不用品回収などから得た素材で服をデザインしたクリストファー・ネメス(後に活動拠点を東京にし、竹中直人やイチローが着用するブランドとして有名)と一緒に活動していた。彼らの作品として、郵便物を入れる古い鞄の生地で作られたシャツの写真もある。ポスト・パンクのその時代、拾ったものでファッションアイテムを作るDIY(Do it Yourself : 手作り)美学の精神が、そこから読み取ることができる。

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Martino Gamper ICA Off-Site: Old Selfridges Hotel 2013

詩人であり絵描きでもあったデビッド・ロリアードのケースには、懐かしい色とりどりの星型ビーズがキラキラと散りばめられ、ケースの側面には「Life isn’t good Its’ excellent」(人生は良くない。でも素晴らしい。)など彼が書いたシンプルな詩と、哀愁漂う線で描かれる人物のイラストが貼られている。前衛的なパフォーマンスで、自らを「生きる彫」(リビング・スカルプチャー)と称する、2人組のアーティスト:ギルバート&ジョージと深い親交があり、彼らによる詩集の出版により、イギリス内でもその名を知られることとなったデビッドは、80年代のクリエイティブな精神を発信してきたアンダーグラウンドの出版物や雑誌に詩や絵を多数掲載しており、ギルバート&ジョージは彼を「現代人の新しいマスター」だと呼んでいた。1988年にAIDSのため36歳でこの世を去る1年前の詩「MEMORY OF A FRIEND(A burst of tears From all your friends the end: 全ての友人からの溢れ出る涙 終結)」が、きらびやかなビーズと相まり彼の生きた時代を髣髴とさせる。 

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ICA Off-Site: The Old Selfridges Hotel, Julie Verhoeven Vitrine, curated by Julie Verhoeven, Credit: Mark Blower

ルイ・ヴィトンのバッグデザインやファッションブランド「GIBO」のデザインでも注目を集めてきた、アーティストでありデザイナーのジュリー・ヴァンホーヴェンによるケースでは、彼女ならではのファッションスナップのコラージュやパステルカラーのイラストと共に彼女自身の横顔の写真が飾られる。しかしながら、ケース自体はガーゼのような布で覆われ、その全容をはっきりと見ることは難しい演出で、ポップカルチャーや虚栄に満ちた現代社会、性問題などのテーマに常に向き合ってきた彼女のメッセージを感じることができる。

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ICA Off-Site: The Old Selfridges Hotel, 2013, Installation Shots, Credit: Mark Blower

このほかにも、1991年に立ち上がったコンテンポラリー・アート&カルチャーのマガジン「friez」、女装ファッションの世界をナイトクラブに実現したヴォーグ・ファブリック(2008年にロンドンのイースト・エンドにオープンしたクラブ)、常に前衛的な活動を繰り広げてきたチャイセンヘール・ギャラリー、1996年から2003年までの間イギリスのベスト デザイナーとされてきたアレキサンダー・マックイーン、クラブDJやアニメーション分野でも活躍する異色の家具デザイナー、トム・ディクソンなどなど、イギリスから出発し世界的な人気を得カルチャーが一堂に空間に集まり、訪れた人はその歴史と現代のアート&カルチャーに彼らが及ぼしてきた影響力に感動を覚えることだろう。

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Bethan Laura Wood, ICA Off-Site: Old Selfridges Hotel, 2013

会場には、ガラスケースのほかにも、入り口左手に飾られたデザイナーのベサン・ローラ・ウッドのパステルカラーの照明や、100日の間に100脚の椅子を作るプロジェクトで有名なマルティノ・ガンパーによる椅子の展示 (この椅子は彼が失恋した後に作ったもので、その特に今にも壊れそうな脚と佇まいは寂しさを表現している)、イギリスでゲイ&レズビアンのカルチャーに最も影響を与えてきたとされるジョン・メイブリーによるビデオアートのコーナーも心を揺さぶる。ジョン・メイブリーのミュージックビデオからこぼれ聞こえる80s ポップが会場に響き渡る中、80年代イギリスのクリエイティブが現代のカルチャーとどのように結びついているのか、どのように変遷してきたのか、訪れた人は想いを馳せることだろう。
一つの空間でありながら、アート作品からファッション、グラフィック、映像、クラフト&デザインの多様なフォームが存在し、また、同性愛やAIDS、コマーシャリズに対する彼らのアイディアが築いてきた独特の時代性が存在する。ロンドンのサブカルチャーの歴史を目の当たりにすることになる展示である。

A Journey Through London Subculture 1980s to Now
会期:2013年9月13日~11月3日
時間:11:00〜18:00(木曜21:00まで)
入場料:無料
会場:ICA Off – Site The Old Selfridges Hotel
住所:1 Orchard Street London, W1H
http://www.ica.org.uk

Text: Fuyumi Saito

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