SMAL国際会議「デジタルの裏庭」

HAPPENINGText: Magdalena Taube

2012年秋に開催されたベルリンでの会議のフォローアップ・イベントとして、今回札幌メディア・アーツラボ (SMAL) 主催、ベルリーナ・ガゼットの共催によりSMAL国際会議「デジタルの裏庭」が1月10日から12日の3日間に渡り開催された。

SMAL国際会議「デジタルの裏庭」

雪の壁、滑りやすい道路、細心の注意で運転するタクシー運転手、それが1月中旬の札幌の街だ。国際会議「デジタルの裏庭」は、特別で刺激的なセッティングの中で開催された。この会議が行われた場所は、全てが氷雪に覆われた都市中心部にあるSMALの拠点である北翔大学北方圏学術情報センター(PORTO)。ジャーナリスト、アーティスト、研究者、アクティヴィスト、開発者たちが、この「アイディアの港」に集合し、日本や海外における「デジタルの裏庭」の活動について議論、それらの可能性を実現する方法について語り合った。

会議プログラムは、大きく2つに分けられ、最初の2日間は約40人の専門家が参加したネットワーク・ラウンジ、最終日は100人以上が参加した公開報告会のセッションであった。このイベントの模様は、ユーストリームフリッカーで見ることができる。

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異なるフィールドから多くの人々が集まれば、誰かが尋ねることとなる。各人の共通の要素は何か?すべてのワークショップや公開のパネルの中でその話題は出ただろうか?会議の内容やアウトプットを注意聞き、私たちは、全て要素が異なる背景の中で、共にイノベーションについて意見を出し合ってまとめていった。

イノベーションのボトムアップについての概念は、市民権、アート、ジャーナリズムおよび消費の要素の中のミクロレベルのイノベーションとして議論された。異なるワークショップに集まったエキスパートは、すべてのアイディアとプロジェクトを示し、その議論は、主として実際的で実地のレベルで起こったものであった。

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札幌、および北海道には多くの雪がある。雪は美しいもの、しかし、多くの人々にとって、それは日常生活の中での問題となる。インターネットと新しいデジタル・ツールは、人々がこの問題の解決策に積極的に関わるよう手助けするかもしれない。

今日では、誰もがセンサーとなる。これはつまり、札幌の除雪問題のように、皆が様々な都市問題を解決するための大切なデータを提供できることを意味している。ワークショップ「ソーシャル・インパクト」には、プロジェクト・メーカーと開発者が集まった。参加者は、アンドレアス・シュナイダー(情報デザイン研究所、日本)、小川智史(測ってガイガー!)、ショーン・ボナー (セーフキャスト)、モデレーターはクリスチャン・ウォズニキ(ベルリーナ・ガゼット)であった。

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このワークショップグループの出発点は、福島第一原子力発電所事故に対する彼らの個々の反応であった。多くの日本人は、政府機関や東京電力によって提供された公式な放射線データが不確実なものであると感じ、多くの人々が自分でデータを集めて、調査していた。小川智史は、クラウド・データを土台とする地図「測ってガイガー!」を開発し、人々のデータを容易にパブリック・アクセスできるようにした。同様の考えから、ショーン・ボナーは「セーフキャスト」を開発し、アンドレアス・シュナイダーは、集合的に収集された放射線データを備えた放射線測定地図を開発した。

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放射線が札幌における喫緊の地域的課題ではないことから、「ソーシャル・インパクト」のワークショップ・メンバーは、札幌における雪問題にそれらの方法論を適用しようとした。ネットワーク・ラウンジの2日間で、「札幌スノー・プロジェクト」が考案された。それはクラウドソーシングとマッピングについての同様の考えに基づいている。

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出発点は、地方行政がより良い除雪サービスをどのように提供することができるかという問いだった。結局、多くの市民は、現状のシステムは十分効率的ではないと考えている。重要なことは、市民がその問題を解決するために、直接参加できるようになることだ。もし全市民がセンサーになったならば、除雪が必要とされる雪の量などを、文字および正確で詳細な位置情報を提出することができるだろう。これはプッシュとプルのモデルだ。モバイルアプリによって、市民は、除雪を市職員に依頼することができ、同時に市役所は、特定の地域に関する情報を提出してくれるよう、市民に依頼することができる。

ワークショップ・チームは、除雪の現行制度に関して札幌市の職員数人とも直接議論し、考えを示した。このプロジェクトは現在も継続中である。

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ワークショップ「明日のアート」は、アート、およびアーティストと消費者の新しい役割に注目した。このワークショップの参加者は、三浦啓子(北海道教育大学)、橘匡子(S-AIR)、大黒淳一(アーティスト)、端聡(札幌国際芸術祭地域ディレクター)、小田井真美(札幌国際芸術祭)、岡田智博(研究者/クリエイティブクラスター)、モデレーターの武邑光裕(SMAL所長)。

議論を誘導する主役は、ヨーゼフ・ボイスの「全ての人は芸術家である」という信条であった。この考えは、デジタル時代において、新しい勢いを獲得するように思える。これにより、重要な社会的実践としてのアートの役割が再定義されている。伝統的に非アーティストと考えられる人々を巻き込むことによって、それは目に見える問題をレンダリングし、その解決のための概念的なツールを提供する。エリート主義を別にすれば、最近のアートは社会と地域コミュニティーにより深いインパクトを持つことができる。ワークショップは、日本のアーティストの状況、変化するアートの役割および札幌のローカル・コンテクストに対処しようとした。さらに、このワークショップでは、議論のための実用的なアジェンダがあった。2014年に札幌市は、芸術の新しい役割を実験するためのプラットフォームとして札幌国際芸術祭(トリエンナーレ)を開催する。

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全ての人が芸術家である、というのは真実かもしれない。しかし、全ての人がアートで生活をすることはできるのだろうか?日本では、アーティストの居場所は非常に脆弱だ。北海道教育大学の三浦啓子は、鮮明な事例を挙げた。『近頃、私たちは、アートへの関心を声高に主張する学生が少なくなっています。しかし、デザインにおいては、より多くの学生が関心を寄せます。彼らは、デザイナーまたはクリエイティブ・ディレクターになりたいと言います。 2000年の初めには、美術またはインスタレーション・アートに関心を持つ学生は多くいました。私は、学生たちが、崩壊する経済の影響を強く受けていると考えます。デザインが社会に寄与することは明白に見えます。増加するソーシャルメディアの使用で、アートは見えにくくなっています。教育者としての私は、アーティストがどのように経済的に生き残ることができるか、自己マネージメントの教育の必要性があると強く感じます。』

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だとすると、アートはどのように存続できるのだろうか?そしてその結果、アーティストは彼らの仕事を持続できるのだろうか?岡田智博(クリエィティブクラスター代表)は、デジタル・メディアの結果として、静的な博物館ではなく多形態の方法でアートが提示される必要があると指摘する。その1つの事例は、YCAMで示された。ここで、劇場プロデューサーと同時代の音楽家は、初音ミクのオペラを上演するため共に働いた。このオペラでは実際には、誰も歌わず、誰も演奏していない。なぜならボーカロイド・ソフトウェアを使ったからだ。このように、突如として「普通の女の子」が、オペラ制作の一部でありえたのだ。この制作の方法は、必ずしも芸術家の財政問題を解決しないが、おそらく何がアートか、誰がアーティストなのかという認識を変えていくだろう。

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このグループのアイディアは、シンガポールからスカイプで会議に出席したイヴォンヌ・シュピールマンの話によってさらに濃密になった。シンガポールのラサール芸術大学の芸術学部長であるシュピールマンは、ハイブリッド(異質のものを組み合わせる)文化について彼女の見解を説明してくれ、それは私たちの現実が様々な層の組み合わせから成り立っていることを思い出させてくれた。私たちの多層な現実において、アーティストは重要な役割を担っており、彼らは、私たちに異質的な状況を理解させてくれる。またアーティストたちは、重圧と対峙する。ただ受け身に消費されるだけでなく、それが積極的な方法として使用されれば、思いがけない状況に、(デジタル)メディアのより大きい可能性があるように思える。

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近頃、誰もがジャーナリストになる。ツイッターのようなマイクロブログのためのブログ・ソフトウェアやプラットフォームなど、さまざまなツールを使用して、普通の人々は微細なニュースまでを提供することができるのだ。社会的、文化的、政治関連のイベントに参加するとき、彼らは、自分たちの見たことを共有できる。そして、直接アクセス手段を持つ既存のニュースに関して、報告、修正、補完することができる。

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「リロードされた出版」と題されたワークショップでは、出版の未来を取り上げた。そこには本誌「SHIFT」の編集長・大口岳人、「グローバル・ボイス」の日本語エディターである田中恵子、ドイツ議会における「緑の党」のインターネット政策と著作権の専門家であるクリス・ピアラ、モデレーターとしてベルリーナ・ガゼット編集長のマグダレーナ・トウブが参加した。

市民メディアやデジタル出版の分野で多くの経験を持つこのグループは、いち早く「私たちの活動をどのように持続できるだろうか?」という質問を提案した。出版界がますますグーグルとフェイスブックのようなグローバル・プレーヤーによって支配される中、また、誰もが簡単に出版できる時代となった今、どのように代替の出版フォームを維持することができるだろうか?

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クリス・ピアラは、デジタルの混乱の時代に新たな話題の必要性を述べた。一般的な枠組みがあれば、特別な文化的生産や出版による争いを知覚し、乗り越えることができる。私たちは差別化されたアプローチ(ミクロレベルで)と同時に、全ての人の文化へのアクセス権を宣言し、既存の大きなメディアが同意する程包括的で十分な話題が必要なのだ。デジタル時代の話題は、主に「ただネットを借りているだけ」というような持続可能性の概念が主となるかもしれない。環境保護運動は、共有資源に対する皆の責任の宣言にかなり成功した。私たちはこのことから学習することができた。私たちは皆、生産者・消費者として、使用するウェブサービスおよび閉鎖生態系の契約法に依っている。開かれた共有資源として文化的生産を理解する場合のみ、私たちは持続可能な状態を保持できるだろう。

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他のワークショップの行程の中であげられたものと同様に、このグループの課題の出発点は、「人々のより多くの力を!」というものだった。大口岳人は、人々がローカル・ニュースを組織し、それを支援するテンプレートを作成するアイディアを思いついた。グローバル・ボイスのようなテンプレートをローカライズし配布することができれば、皆が自身のデジタル地方紙を作成することは簡単になるだろう。札幌には100万人を超える読者を持つ非常に強力な地方紙、北海道新聞がある。デジタル地方紙の挑戦は、既存の読者に接続し、彼らが自分の新聞の生産に活動的に従事することを支援することなのだ。

明らかに、そのようなピア・プロダクション(集合知を利用し、共有しながら発展していくもの)は、人々の力が、行政と経済からの力で補われる場合、持続可能になる。それらのセクターが持続可能になるためには、大量の創造的な出力を補完する適切な環境(私たちは法律と規則について話しています)を作成する必要がある。

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誰でも、プロシューマー(生産を包括する活動的な消費者)になることができる。それに加えて、活動的な消費者は新製品、コンテント、さらにもっと多くを生成することができる。「我々が行う:消費者生成コンテントの潮流」と題されたワークショップでは、デヴィッド・リンゼイ・ライト(クイーンズランド工科大学)がモデレーターとなり、須之内元洋(札幌市立大学)、迎山和司(はこだて未来大学)、福浦友香(オタク文化研究者)、吉村匠(北海道フード特区機構)、伊藤博之(クリプトン・フューチャーメディア代表)という一連が集まった。

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いわゆる「消費者/ユーザ作成コンテント」は、大量消費で作られ、標準化されたコンテントや製品を、容易に凌ぐ品質をもっている。そこでは、より個人的で、複数の個による多量でユニークな生産が行われ、大量消費からの代替に興味を持っている人々に提供される。

この新しいプロシューマー文化のひとつの例は、日本のポップ・アイドル初音ミクだ。初音ミクは、実在の人物ではなくクリプトン・フーチャ―メディアによって開発された女性ペルソナのボーカロイド。伊藤博之は、初音ミクの成功がどのようにしてユーザの参与性や意思決定に関連したかを説明した。オリジナルのソフトウェアは専有著作物だ。しかし、付加されるソフトウェアはオープン・ソースだ。誰でも、ミクのための歌を作曲し、彼女に歌ってもらうことができる。

すべての背景の中で、イノベーションは、必ずしもそれを必要としていない人々によって引き起こされる。代わりに、彼らは専門家や商業的関心とは異なる、彼ら自身の情熱に従うのだ。あるいは、彼らは破局的な状態にいて、非標準的なソリューションを開発することで大きな問題に対処しようとする。

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会議で、私たちはこの種のイノベーションのための用語を造った。「静かなイノベーション」。伊藤穣一(MITメディア・ラボ所長)は、キーノート・スピーチの中で述べたように、このイノベーションの発現と開発には、ほとんどノイズがない。それは、支配的な産業のデジタルの裏庭で、むしろさりげなく起こることなのだ。

この静かなプロセスを、札幌に降る雪と比べてみることもできた。ひとひらの雪は、私たちが暮らしている環境を変化させるのだ。

SMAL国際会議「デジタルの裏庭」
会期:2013年1月10日〜12日
会場:北方圏学術情報センター(PORTO)1Fホール
住所:札幌市中央区南1条西22丁目
TEL:011-622-5110(札幌メディア・アーツ・ラボ事務局) 
http://www.smal.jp

Text: Magdalena Taube
Translation: Mitsuhiro Takemura
Photos: Yasuhiro Yamaguchi, Chris Piallat, Krystian Woznicki

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