戸塚憲太郎

PEOPLEText: Yu Miyakoshi

一人のアーティストがファッション企業の社長と出会い、アートを世に送る側の立場に。H.P.FRANCE(アッシュ・ペー・フランス)が運営する「hpgrp GALLERY(エイチピージーアールピー ギャラリー)」のディレクター、戸塚憲太郎氏の仕事は展覧会のキュレーションから、アートフェアやアートイベントの企画・ディレクションなど、多岐に渡る。一見ビジネスライクだが、手法はアーティスティック。新しい仕事をつくり、新しい場をつくり、開拓する。そんな元アーティストの考えるアートビジネスとは?アートフェアの準備に追われる戸塚氏を訪ねて、聞いてみた。

戸塚憲太郎

今のお仕事を始められるようになったきっかけについて教えていただけますか?

僕はニューヨーク州立大学大学院のファインアート科を卒業した後、ニューヨークでアーティストとして活動していたのですが、2004年にアッシュ・ペー・フランスが当時ニューヨークで運営していたブティックで個展をすることになり、そこでアッシュ・ペーの代表と出会いました。代表は「アートにもデザインにもファッションにも垣根はない、すべてクリエーターありきのものだ」という考えの持ち主でしたし、面白そうな会社だと思いました。それで代表と話し、日本で仕事をさせてもらうことになったのです。入社後は「rooms」というファッションの展示会のディレクターを務め、ファッション業界の流れや構造、イベントの作り方を勉強しました。そして3年目に、元々やりたいと思っていたアート事業部をつくり、表参道に「hpgrp GALLERY TOKYO」をオープンさせました。最初はギャラリーの運営の仕方もわからないまま、とにかく始めたという感じでした。

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青参道アートフェア

数々のアートフェアも手掛けていらっしゃいますね。

「hpgrp GALLERY」をつくった年の秋に、お客さまやアーティストを呼び込みたいという目的で表参道一帯の店舗を展示の場にする「青参道アートフェア」を開催したのがはじまりです。6年目を迎える今年は表参道ヒルズやラフォーレの中、ブルーノートトーキョーなど、50の店舗で60人以上のアーティストを紹介します。今年からは海外に向けて日本のアートを発信する「NEW CITY ART FAIR」も始めました。将来的には、3月のニューヨークアートウィーク、5月の香港の「ART HK」、10月のパリの「FIAC」、11月の「ART TAIPEI」など、世界の大都市で開催されるアートフェアと同時開催でやっていきたいと思っています。来年の4月は大阪で「NEW CITY ART FAIR 大阪」をやることが決まっています。日本でやる時は海外のやり方と逆で、日本の観客のために海外のアーティスト、アジアや欧米など、海外のアートギャラリーを見せます。

なぜアートフェアというかたちでアートを発表するのですか?

当初は自分のギャラリーに人を集めたいという理由でしたが、2年目ぐらいから主旨がクリアになってきました。誤解を招く可能性もある言い方ですが、基本的には、アートを守ろうとか、アーティストに発表の場を提供するなどの目的ではなく、100%ビジネスのためです。アートをどうやったらお金にできるか、ということです。そして僕自身が作品をつくることで食べてはいけなかったので、アーティストにはアートで食べられるようになって欲しいのです。それが成立しないのは、端的に言ってしまえば市場がないからです。日本人はアートが好きな人は多いのですが、アートを買うものと考える人が少ない。その結果アートマーケットは育たず、アーティストがアルバイトをしながら作品をつくり、お金を払って展示をする、ということが何十年も続いています。また、若い人でギャラリーをはじめる人もいますが、結局利益が上がらずアルバイトをしている人もいます。アーティストもアルバイトしているけど、ギャラリストもアルバイトしているという現状があるのです。ビジネスという面では、もう酷い状況ですよね。ギャラリーにアーティストを売り出したり、海外のアートフェアに行く資金もなかったら、共倒れになってしまう。だから、企業でアートに取り組む以上は、ビジネスとして成立させる事が一番の目的なのです。アーティストを育てるとか支援するなどという目的は、かつて作品をつくっていた立場からすると、そんなことは自分たちでできる。つくれ、と言われなくてもつくるし、育てられなくても育ちます。アーティストにとっては、ギャラリーには作品をお金にして欲しい、というのが正直なところだと思います。

そうはいっても、既存のアートマーケットに入り込んで行って、数少ないアートコレクターを狙おうとは思っていません。そうやってギャラリー同士で少ない牌を奪い合うようなことをしたところで、本当にそれでいいのか、と疑問が残るのです。それよりは、新たな市場をつくりたいと考えます。だから、アッシュ・ペー・フランスのアート事業部の目的は、アート市場をつくること。それが大命題です。

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青参道アートフェアで賑わう参加店舗

確かに日本では、アートを買うという習慣は一般的ではないですね。

僕は、”入門編” から順に始めて行こうと思っています。今年で3年目になる「LUMINE meets ART」(ルミネミーツアート)という企画があるのですが、これは「LUMINE」(ファッションビル)の館内を展示の場にしています。ルミネは駅の上なのでこれ以上ない最高の立地で、会期中には万単位の人に見てもらえますし、お客さまにはギャラリーまで行かなくても、気軽に見て貰えます。「LUMINE meets ART」はLUMINEのブランディングの一環として展示が成立しますし、アーティストにも制作費を支払うことができます。皆にメリットがあるので続いている企画だと思います。

「青参道アートフェア」は店舗スペースを展示空間として展開し、期間中にワークショップやパーティを開催しています。色んなイベントを取り入れることで、「アートは楽しい」ということをもっと一般の方に分かってもらいたいのです。かといってファッションのように、どんどん買われて、どんどん消費されていけば良いと思っているわけではありません。アートが簡単に理解されると思っている訳ではないのです。やっぱりアートは難しいところもあります。それなりに勉強しないとわからないし、積極的に関わろうとしないとアクセスできるものでもない。ただ、難しいと思われがちなアートも、楽しいと感じてもらえれば、そこが入口になるはずです。敷居を下げなければ、入ってくるものも入って来ないし、そこからのビジネスだと思っています。

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2012年3月にニューヨークで開催されたNEW CITY ART FAIRレセプションパーティーの様子

今年は台北で初めて「NEW CITY ART FAIR Taipei」を開催されますね。

NEW CITY ART FAIR」は、日本の作家を海外のアートファンに販売するというのがコンセプトのアートフェアです。日本に市場をつくろう、というのが大きな命題がある訳ですが、時間もかかることですし海外の市場にも平行して自分たちのアートを売りに行くための場をつくって行こう、と。一番最初はニューヨークで開催したのですが、ニューヨークならアッシュ・ペー・フランスのギャラリーもあり、アートフェアの会場としては狭いけれど、10件ぐらいならなんとかなる。そこで現地の人たちに「日本にもこんなに面白いものがあるんですよ、日本のアートを見ませんか」ということで始めました。

台北での開催は、ニューヨークで始めた時から考えていました。台北にはアートマーケットがあり、現地のアートフェア出展を通じて繋がりもできつつあったので、「ART TAIPEI」(アジアで一番歴史のある台北を代表するアートフェア)に合わせて開催したいと思っていたのです。会社としても日本のファッションやライフスタイルを東アジアから世界に発信していこうという動きがあったので、ファッションとアートの境無く日本のライフスタイルを台北に持って行こう、ということになったのが「roomsLINK TAIPEI」で、「NEW CITY ART FAIR Taipei」はその中のアートエリアとして開催します。

会場のイメージはどんな感じですか?

huashan1914という場所で開催します。元酒造工場にイベントスペースやレストラン、バー、ギャラリーなどが入り現在はクリエイティブなスペースになっているのですが、そこを借りて、ブースを立てて展示をします。基本的には日本の商材や作品が中心ですが、現地の学生と一緒に現地の廃材で什器をつくったり、台北市街地でイベントを行ったりと、色々な形で交流イベントをします。また、「ART TAIPEI」との交流もあり、「ART TAIPEI」のVIPプログラムで紹介していただいたり、会場同士をバスで結んだりして連携をはかっています。お互いに客層が異なるので、相互にメリットがあると思います。

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青参道アートフェアのメインイメージに起用されたRichの作品。NEW CITY ART FAIR Taipeiでも紹介される。

アジアと共同していく必要性は感じていらっしゃいますか?

日本は島国ですし、開いてくのが難しいと思います。でも、そんなことは言っていられないですし、台湾の人たちとハイレベルなクリエイティブの水準をつくりだせたら、それを東アジアに広げていきたいと思っています。それは日本のためでもあります。貧富の差が少ない日本では、ラグジュアリーブランドでもない、かといって安っぽくもない、特殊なファッションの市場が育ちました。そういった市場が東アジアでも育つ可能性があるので、ファッションとアートを一緒に持っていくのです。世界でも、日本ほどお洒落な国はありません。ただそれは、消費者としてのレベルが高いだけで、結局は発信元は今だに欧米にあり、日本から発信はしていません。今後を考えたら、欧米の次に東アジアが来て、その時にイニシアチブをとるのが日本であるべきです。このままでは、アジアの他の国にイニシアチブを譲り、日本はまたレベルの高い消費者になってしまう。日本から発信をしていき、価値を付けていかなければ、この先は無いと思います。だから「NEW CITY ART FAIR Taipei」は、日本と台湾のライフスタイルを合わせて底上げしていこうというイベントであり、ひいては日本のためのイベントなんです。話が大きくなってしまいましたが(笑)。
ただ、東アジアで展開していこうという時に、欧米的な資本主義をベースとした考え方をすれば、次は北京や上海に行くべきですが、僕は最近、そっちではないところに価値があるのではないか、と思い始めているので、今後の展開はやってみなければわかりません。

欧米的な資本主義に違和感を?

最近気づいたことがありまして、欧米型のアート市場と、日本にあるべきアート市場のかたちというのは、もしかしたら全然違うのものなんじゃないか、という風に思いはじめました。どういうことか言いますと、今までは欧米のように、ホワイトキューブなギャラリーをつくり、ギャラリーがアーティストをリプレゼントし、大きなアートフェアやオークションを開催し、コレクターを呼ぶという、海外で見て来たような市場を目指すものだと思っていました。でも、そういった欧米型のシステムは、欧米のライフスタイルや住環境や歴史といった、様々な背景から生まれてきたものですよね。何故日本がそれをやらなければならないのか?ニューヨークのチェルシーなんかを歩くとギャラリーに5mぐらいの写真が飾られていて、それが数千万で売れてしまう。凄いと思うけど、虫の色や葉に落ちる水滴を「美しい」と愛でているような国民が、それを見てピンときますか?という話なんです。欧米で育まれてきたものをそのまま引き継いでも、元々自分たちのものじゃないじゃないか、では日本はどうだったのか、と考えたら、日本には昔から、王様が擁護して絵を描かせたような欧米型のアーティストなんて居ませんでした。居たのは、職人や工芸の作家で、職人たちが競う中で凄いものを残した。そういった日本の「美」が、戦後から完全に分断されてしまったのです。それで、自分たちは一体何なのか、今まで目指してきたものは違うんじゃないか、というのが最近思っていることです。そんな感じで、色々なことに気付きつつ、目指すところが変わりつつやっていますが「NEW CITY ART FAIR」では、日本人の価値感を向こうに持っていき、それを好きになってくれる人がいたら、好きになってもらえばいい。それが自分たちにとっての市場だと思っています。

色々な可能性が広がっていきますね。

新しい市場をつくるためにはどうしたらいいのか、何をしたらいいのかというのが、今僕が手掛けているすべての活動です。そして、「アートを買いたい」という人たちが出てきた時に、買いに来る場所はギャラリーであって欲しいから、「hpgrp GALLERY TOKYO」は最初につくったけれど、最終目的地です。今ギャラリーを自分で運営している若い人たちも、10年後、20年後に市場が充実していればいいと思っているはずです。僕はたまたま企業でやっているので、業界全体、最終的には日本という国のためなればいいと思っています。とにかく、市場をつくらないと何もはじまらないと思います。それで今お話ししたような一連の活動をしています。今後はもっと日本独自の価値観、日本独自のアートというものを探していきたいです。こういった考え方に賛同してくれる人は業界の垣根なく、広く探していきたいですね。

NEW CITY ART FAIR TAIPEI 2012
会期:2012年11月8日〜11日
会場:華山1914創意文化園区(台湾台北市中正区八徳路)
フェアディレクター:戸塚憲太郎(hpgrp GALLERY TOKYO)
主催:アッシュ・ペー・フランス株式会社
http://www.newcityartfair.com

戸塚憲太郎
1974年札幌生まれ。1997年武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業、渡米。2004年ニューヨーク州立大学大学院ストーニーブルーク校ファインアート科修了。同年帰国、H.P.FRANCE入社。ファッション合同展示会「rooms」ディレクターを経て、2007年に同社初のアート専門事業部を立ち上げ、hpgrp GALLERY TOKYOを表参道にオープン。同年「青参道アートフェア」をスタート。現在は同ギャラリーのディレクターと青参道アートフェアプロデューサー、NEW CITY ART FAIRディレクターを務める。

Text: Yu Miyakoshi

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