澁谷俊彦

PEOPLEText: Satsuki Miyanishi

北海道札幌を拠点に、場との共鳴を求める作品づくりを行う美術家・澁谷俊彦。冬や雪、大地と自然、雪国ならではの新しいアート表現に意欲的挑み続ける数少ない作家の一人だ。
クロスホテル札幌で開催される展覧会「MYSTIQUES」(ミスティークス)への参加や、札幌芸術の森での野外展示、モエレ沼公園で行われる「スノースケープモエレ」での展示など、澁谷氏の作品が多くの場所で楽しめる冬の季節が北海道にやってくる。
クロスホテル札幌での展示を前に澁谷氏にお話を伺った。

澁谷俊彦

まずはじめに自己紹介をお願いします。

1960年室蘭生まれ、札幌在住の美術家。現在は個展中心に発表活動をしております。 

1984年から作品発表を行っていますね。東京、名古屋、大阪、京都、札幌と展示を行ってきましたが、その間自身の作品はどう変化してきましたか?

当時(80年代)私の周辺には形式主義的似非現代美術作家が多数おり、そこに自らの方向性を見出せずにいたため、あえてオンペーパーである版画(幾何学抽象表現によるモノタイプ版画)で、色彩をテーマに制作しておりました。四季折々の各地の自然観を表現するなかで、徐々に大いなる大地、郷里北海道への想いが募るようになり16年前に東京から戻ってまいりました。

2006年からは平面から、立体へ、インスタレーション作品の制作を行っていますね。変化のきっかけは何だったのでしょうか?

2004年から始まった「絵画の場合」(展覧会開催と定期的に開催される議論編を軸に展開される運動体)における議論がそのきっかけです。翌2005年展にむけて「絵画の定義」が議論され、当時メンバーであった穂積利明氏(現道立近代美術館主任学芸員)から投げかけられた様々な問いに対して悪戦苦闘(笑)した結果、2年越しに出した答え?が、2006年にCAI現代芸術研究所で開催した個展「瞑想の森」でのインスタレーションだったわけです。穂積氏が追求されていた「グローカル」(グローバルとローカルを合わせた造語:地理的偏差の撤退、中央−地方という階層の解消を示すばかりではなく、欧米主義−アジア、男性中心主義−女性の身体性、障害者、との融合・共動といったことも含んでいる)の実践は今なお、自らのあるべき方向性を探る指針となっております。

具体的にはどのように「絵画」を拡張していったのでしょうか?

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「瞑想の森」2008年

分かりやすく具体例をあげて説明しますと、2006年開催の個展「瞑想の森」、2008年個展「森の雫」では矩形画面への内なる追求から空間へ進出することで絵画の可能性は拡がるのではないかと考えました。まずは壁面から床面へと展開することで、作品は天地左右が消失し360度鑑賞可能となります。また支持体の高低差を調整することで、鑑賞者と作品の焦点距離をコントロールできるようになったのです。

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「蒼い雫」2009年

また2009年の個展「蒼い雫」では支持体を掌サイズの半球型とし、その円形平面状に版表現を施しました。陶磁器や茶道具の如く、手に持って鑑賞してもらうことで、壁面作品の鑑賞方法より親近感を抱いて貰うよう心がけました。このように従来型の鑑賞方法に変化を与えることで、何かが生まれると考えたのです。
この時点では未だ強く絵画表現への自覚(執着)を持って展開しておりました。

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