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「アバス(ABBAS)写真家45年の軌跡」展

HAPPENINGText: Rachel Alexis Xu

アバス(ABBAS)写真家45年の軌跡」展がオープニングを迎えた。熱心な来場者が手にするアバス本人からのカードには、大抵の回顧展は作者が死んだ後に開催されるものだという、ユーモアたっぷりのジョークが記されている。悪い冗談はさておいても、この言葉は名声というものが繰り返しさらされる現実を的確に言い当てている。つまり、作品のもつ世界観は作者の死後にのみ受け入れられるということだ。しかし、素晴らしい作品はシャッターが切られた瞬間から1日経とうが10年経とうが色褪せることはない。アバスの作品のように。

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Photo: Ray Chua. Courtesy of National Museum of Singapore

アバスの旅の軌跡を示し、描き出すことで写真展は展開していく。ベトナム戦争の身の毛もよだつ戦いの記録、イラン革命時の放浪、そして長年にわたりメキシコ繁栄を見つめる眼差し——。他にも多くの作品が展示される。

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Photo: Ray Chua. Courtesy of National Museum of Singapore.

状況や背景がどうであれ、アバスの才能は明らかだ。瞬間を捕らえ、超越したものへと高めていく能力。超越とは時間の概念を越えるものか。あるいはそうかもしれない。しかし皮肉なことに、我々は時間には限りがあると知った上で超越の概念を理解する以外になく、そうすることによってのみ、時間の儚さに相対していくことができるのだ。

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Belfast. A wall crumbles down, a presumed act of arson by the IRA. 1972. UK © Abbas / Magnum Photos

「私の写真は動きの中で具現化する思考であり、それは瞑想へと誘う」とアバスは記している。動きの中の一瞬——全ての写真が間違いなく何らかの瞬間を捕らえている。しかし、ただ対象を捉えるだけに留まらず、見る者にその写真の前後に起きた事柄について考えさせるほど力強い瞬間を捕らえられる写真は稀だ。アバスが撮影した、ベルファストの塔が崩れる最中を捕らえた写真は崩壊を叙情的にすら切り取っており、見る者の思いを次の瞬間に起こった事象へと引き込む。

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