トランスメディアーレ 2010

HAPPENINGText: Yoshito Maeoka

トランスメディアーレは、展覧会、シンポジウム、映像の上映、ワークショップで構成されたメディア・アート・フェスティバルだ。平行して行われるクラブトランスメディアーレでは音楽とパフォーマンスに重点が置かれている。本稿ではトランスメディアーレの展示を中心にその様子を御伝えしたい。

例年この時期は幾分寒さがやわらぐ事が多いが、今年はいつに無い大雪に見舞われていた。今年のトランスメディアーレは「FUTURITY NOW!」と題し 20世紀、つまり過去における未来のイメージとして描かれつつも、その時が近づくにつれユートピアでもなくディストピアでもない時代として描かれ出していった現在、2010年を捉え直すことを試みていた。

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‘From One to Many’, Yvette Mattern (Photo: Daniel Brune / Laserfabrik Showlaser GmbH)

コンセプトからいくつか言葉を借りるとすると、確かに、車輪の無い車が縦横無尽に都市を駆け巡る様な“未来の風景”はまだ見ることはできないが、複雑に絡み合った世界経済、政治、文化システム、瞬時に進化する技術が同時発生することにより現在の私たちが存在していることは明確だ。ユビキタスコンピューティングやソーシャルメディアは揺るぎなく私たちの文化コードとして定着し、私たちは“未来”に追いついてしまった。それゆえ“未来”はアイデンティティの危機に陥り試行錯誤し続ける。そのような試みの一環をこのイベントに見て取れるのだろう。

展覧会は「フューチャー・オブスクラ」と題されていた。このオブスクラという単語はカメラ・オブスクラが由来である。カメラ・オブスクラは、ラテン語で暗い部屋を意味し、今日のカメラ技術の原型となった装置を指す。外部の風景を暗い内部にイメージとして投影できる機械であり、15世紀頃レオナルド・ダ・ヴィンチ等により絵を描くための装置として使用された。この機器を、今日の技術、今日のコンテクストと結びつけるのが展覧会部分のコンセプトとなっている。

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池田亮司は「data.tron [3 SXGA+ version]」を展示していた。膨大かつ様々な数値が絶え間なく流れ、サンドストームの様に巨大なスクリーンに投影されており、時として無機質なbeep音とともに遮断される。一瞥では把握しきれないデータの流れは「コンピューター・エイジ」といったキーワードと結びつけられる近未来のイメージを想起させる。

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一方でジルビナス・ケンピナスはこの作品に近似したイメージを、まったくアナログな方法で表現していた。インスタレーション会場に入ると、ざわめく様な細かいノイズ音とともに暗がりの中にまたたく無数の白い線がサンドストームの様に大きく壁一面に投影されている様に見えた。そばに近寄ってみると、無数のビデオテープが平行に何本も張り巡らされ、それが風を受けて揺らぎ、重ね合い、隙間を空け、またたく白い線とノイズを生み出していた。ビデオテープという映像マテリアルを全く別の方法で使用し、新たなイメージを生み出している点がとても印象的だった。

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