トーマス・ルフ写真展「1979-2017」

HAPPENINGText: Victor Moreno

オルドゲート・イースト駅を降り、ブリックレーン方面に向かうと、テラコッタ作りのアートヌーヴォーを調の建物が見える。これがホワイトチャペル・ギャラリーだ。メインドアは二つあり、1階のギャラリーに直結している。ギャラリーの最初の展覧会は、1938年に行われたピカソのゲルニカだった。それ以来ホワイトチャペル・ギャラリーはロンドンのカルチャーを象徴する役割を担ってきた。今回私はドイツ人写真家のトーマス・ルフの展覧会「1979-2017」を訪れた。

本展では、主に1980年後期にナショナル・ポートレート・ギャラリーで展示されたルフのこれまでの代表作と近作である3Dイメージの火星、星座、新聞のアーカイブ(宇宙開発競争やハリウッドスター)で構成されている。これまでにも世界中のギャラリーで展示会を行ってきたルフはテート・モダンから“イメージの再構築の天才”とまでも賞されている。

1階では小さな写真シリーズの「L’Empereur(皇帝)」(1982年)を見ることができる。このシリーズは8つの写真からなっており、ルフ本人が2つの椅子に落ちるように寄りかかっている姿が黄色のフロアランプとともに写し出されている。

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メインルームには「Porträts(ポートレート)」(1986〜1991年; 1998年)シリーズが展示されている。証明写真のようなこれらの写真は、名前や場所などの情報はなく、被写体のイメージそのものだけを拡大したものである。このような表現方法を、中身がなく、アーティストの好みだけを映し出し、大きさだけで注目を集めたいだけだ、と批判する人もいるが、ルフの表現方法であるスキントーンを映し出すための光の使い方や、無表情さ、オフホワイトの背景に対してのフラットな色の使い方は誠実で、ニュートラルな印象を見ている人に与える。

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これらの作品の前には、ヨーロッパ南天天文台の高性能天体望遠鏡で撮影されたシリーズ、「Sterne(星)」(1989〜1992年)が展示されている。この作品では、光と闇のバランスを重要視しており、モノクロのコントラストが強調されている。この横には、3D作品の「Maschinen(機械)」(2003年〜)と「ma.r.s.(火星)」(2010年〜)が展示されている。本展では、昔ながらの赤と青の3Dメガネを借りることができ、それで作品を見ることができる。3Dで表現されたこのシリーズは、リアル感がさらに増し、まるで本物の火星を間近でみているようだ。

次の展示作品はルフの初期シリーズで、デュッセルドルフの友人の家の部屋の中で撮影された「Interieurs(室内)」(1979〜1983年)。小さな写真シリーズだが、子供の頃にポラロイドで撮影された写真のように現実感に溢れ、なにか生々しい、それでいて懐かしい感じさえ思い起こさせる。

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