大友良英

PEOPLE

ENSEMBLES。響合う複数の音楽たち。

フリージャズ、即興演奏、ノイズミュージック、現代音楽、電子音響、映画音楽など、音楽をめぐる世界中のフィールドで幅広く活躍する大友良英。2008年7月5日から山口芸術情報センター[YCAM]で開催されている大友良英による展覧会「ENSEMBLES」は、昨年1月にせんだいメディアテークで公開された作品をベースに、大幅にアップデートした改訂新作に加え、新作3作品含む4つの異なるインスタレーション作品を多角的に披露している。今までも、今回の展覧会でも、多数の人々とコラボレートしサウンドを紡ぎだし続けている大友良英氏からお話を伺った。

大友良英
2008.8.23 LIVE-2:orchestrasオープニングライブ「Musics」

これまでの活動について教えてください。

もう30年以上も音楽の世界に居て、一体なにがバックグラウンドかは、自分でもわからなくなっています。でもあえて言えば、特に1960年代、子供の頃にテレビや映画、ラジオから受け取った音楽とコメディが私のルーツです。その多くは日本で「歌謡曲」と呼ばれていた20世紀の日本にしか存在しなかった異形のポップスです。そうした日本の音楽には、アメリカのポップスやジャズ、ラテン音楽やロシア民謡、ハワイアン、中国音楽等々の要素が、パワフルさと繊細さ、時にとんでもない無神経さで日本の音楽の中に入り込んでいて、大混乱をきたしていました。幼少時の無防備な身体にこの音楽の直撃をうけました。当時の日本を代表するコメディバンドであるクレージーキャッツは写真を見ただけで、今でもうきうきしてきます。

そしてもう1つは、60年代から70年代にかけてアンダークラウンドの世界で始まった日本のフリージャズとノイズミュージック。さらには欧州のフリーインプロヴィゼーション。これは思春期以降に強い影響をうけました。即興やノイズとの出会いが私の人生を変えたといっても過言ではありません。歌謡曲とノイズや即興、こういった音楽達がまぎれもない私の両親たちです。

これまでやってきた活動については、とてもこのスペースで書けるようなものではありませんが、過去20年は、一貫して音楽の世界と、映画音楽の世界で様々なことをやってきました。世間的には実験音楽とか、あるいはアバンギャルドの分野、時にジャズの分野に入れられて語られることが多いですが、本人にはそういうジャンルの意識はなく、ただ異なる語法の音楽それぞれに強い興味があるということにすぎません。無論どこかのジャンルに貢献しようという意識もありません。いろいろな音楽があってこそ世の中豊か・・・って思ってますから。一言で言えば、ひたすらライブと録音の現場を行き来しつつ世界中を旅した20年間でした。

フリージャズ、即興演奏、ノイズミュージック、現代音楽、電子音響、映画音楽など、多彩に活動されていますが、それぞれの分野に至った経緯は何ですか?

先ほど述べたように、それらの分野は、自分の中では別にジャンル分けなどされていない・・・ということです。語法の違いは、あるときは本質的な問題でもありますが、でも、それは、互いに互いを否定するようなあり方ではないし、そうあるべきではないと思っています。かつてよくあった、あるスタイルの優秀さをもちだして、ほかのスタイルを否定するような論調に対して、私個人はものすごい嫌悪を抱いています。自分にとって興味あるものをより知りたい・・・根本はそういう動機です。

もう1つ重要なのは、それらの出来事は、どれも決して一人でやっているのではない、ということです。興味深い人たちと、どう出会って、で、自分に何が出来るのか・・・そう考えていたら、こういう風になったということかもしれません。理由はわかりませんが、ある1つのサークルの中だけで流通している価値観のみに縛られて何かを考えたりつくったりすることが、私はものすごく苦手で結局は、いろいろなところに、どんどん顔を出すことになってしまいます。おかげで、よく嫌われもしますが、でも、そうするのが私にとっては自分自身にとって誠実な方法・・・そんな気がしています。

山口情報センター[YCAM]にて開催中のENSEMBLES展、構想から制作までの様子を聞かせて下さい。

これもこのスペースではとても言い切れない。出会ってから丸5年。最初に会ったときにキュレータの阿部一直さんから、何かやりませんかというオファーは受けています。でも最初はインスタレーションが自分自身に出来るなんて思ってもいませんでした。本格的にやろうと思ったのは3年前、飴屋法水さんの展示の音を手伝った頃からです。この時に再び阿部さんから強いオファーを受けました。展示の世界でなんの実績もない私にここまで声をかけてくれたことに本当に感謝しています。彼がいなければ、こんな展示をやることはありませんでしたから。

いざやる段階になって一番考えたのは、音楽、とりわけ即興の世界で長くやってきた私が、展示に関われるとして何ができるのかということです。まずはそこから考え始めました。で、大きな柱として考えたのが「アンサンブル」というコンセプトです。一人で作るのではなく、バンドでもやるように皆でつくる。わたしの役目はさしずめバンマスってところで、あとは、アレンジャーがいたりベーシストがいたり、シンガーがいたりって具合に、そんな組織を、展示でも出来るんじゃないだろうか。そこから構想は始まりました。

青山泰知、木村友紀、平川紀道ベネディクト・ドリューSachiko M高嶺格、そして参加してくれた沢山のミュージシャン達や、YCAMの優秀なテクニシャン達、多数集まってくれたボランティアスタッフ達、寸暇を惜しんで協力してくれたYCAMのスタッフ達、そしてYCAMとわたしが出会う切っ掛けをつくってくれた山口在住の音楽家一楽儀など、影に表にの絶大なる協力があって、いい感じのビッグバンドが作れたのではないかと思っています。

制作期間中は、もう皆で連日わいわいと。火事場のようでもあり、お祭りのようでもありの日々でした。私のつたないコンセプトをもとに、本人の想像をはるかに超えるような、スーパーハイクオリティの作品達が出来上がったのは、なによりも、これだけの人たちが、それぞれの役目をもってすごいアイディアとスキルをどんどん出してくれたからだと思います。それは素晴らしいバンドが出来上がるのと同じような感じで、見ているだけで感動的でした。
私の名前が前にでてはいますが、正確には今回の展示は「ENSEMBLES」という300人近い人達を巻き込んだ巨大なバンドの作品・・・そんな風に思っています。

大友良英
大友良英+高嶺格+多数のミュージシャン 「orchestras」制作風景

タイトルでもある「アンサンブル」にはどのような意味が込められていますか?

前の回答の通りです。音楽家が展示作品をやるにあたって、持ち込める一番のものは、このアンサンブルという音楽を作る際の制作方法です。まあ、大きなことを言えば、今の人をみていると、アンサンブルする能力が萎えてきている・・・という危機感もあります。過去30年、本来皆でやるものだった音楽が、ラップトップの中で作れるようになり、皆で聴くものであった音楽が、鼓膜を直接振動させるイヤホンで、個人だけの所有物になってしまったのを間の当たりに見てきて、そうした流れに、無駄かもしれないけどはっきりと杭を打ちたいという思いもあります。音楽はそういうもんじゃないだろ・・・って素朴に思ってますから。

アンサンブル・・・というキーワードには、単に音楽の制作方法だけではなく、その背景には、人間の集団が社会とどう向き合っていくのか、あるいはそうやって社会を作っていくのかという視点も含まれていて、その意味では、この作品は今回だけのものではなく、この先私が向き合っていくであろう、大きなテーマが込められてもいます。

インスタレーション4作品について見どころなど教えてください。

どの作品も最低でも1時間は接して欲しいなと思っています。全作品とも展示期間中に一度として同じ瞬間はありません。10分、20分見ただけでは全貌はまったく見えてきません。コンサートに接するように、ゆったりと、じっくりと、そしてゆったりとリラックスして接してあげてください。あなたが接したその瞬間は、他の誰もが、まだ見てない瞬間です。長く居ることできっと沢山のものが見えて、聴こえてくると思います。

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大友良英+木村友紀+ベネディクト・ドリュー+平川紀道+石川 高+一楽儀光+ジム・オルーク+カヒミ・カリィ+Sachiko M+アクセル・ドゥナー+マーティン・ブランドルマイヤー 「quartets」

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大友良英+高嶺格+多数のミュージシャン 「orchestras」

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大友良英+青山泰知 「without records」

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大友良英 「ハイパー wr プレイヤー -ウィズアウトレコーズ ハイファイ ヴァージョン」

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Filament[大友良英+Sachiko M]「filaments」

様々なジャンルのミュージシャンやサウンドクリエータ、ビジュアルアーティストが参加されていますが、どのように今回のコラボレーションに至ったのでしょうか?

YCAMの方からの紹介もあったし、私がたまたま仕事の現場で一緒になって声をかけた人もいます。いずれにせよ、こういう良い出会いは、最終的には縁と、直感しかないと思っています。直感のメーターがふれた時には、まよわず声をかける。話してみる。それは恋人に出会うと似たようなものだと思います。

大友良英
2008.6.20- 29「without records」制作ワークショップ風景

ワークショップやライブについて教えて下さい。参加されている方の反応はいかがですか?

ワークショップの面白さは、私の知らない、しかも専門家ではない人たちと一緒に作業が出来ることです。自分自身も含めての話ですが、専門家は多くのものを得る過程で、多くのもの失った人たちでもあります。その意味で非専門家には、専門家にはない可能性がある、しかもその可能性は乱暴なくらい多方向を向いている・・・そう思っています。そのポイントを発見し、引き出すことが何よりも楽しいですし、結果的にそうした人たちが大胆に関わってくれることで作品はどんどん豊かになていきます。今回はそのチカラに本当に助けられました。とくに「without records」と「orchestras」の地下は、そうした人たちの協力がなければ、面白さは半減したと思いますし、ライブでも小学生や中学生の参加がどれだけ場を豊かにしてくれたかは計り知れません。

大友良英
2008.8.23 LIVE-2:orchestrasオープニングライブ「Musics」

ライブについては、これは私にとっては日常といってもいいくらい、毎日のようにある出来事ですが、でも、今回展示の中でライブをやるということ。しかもそこには私の知らない人たちもいっぱい参加してくれていた・・・というこの2点に、いつもとは違う、大きな可能性を感じています。

展示で得たアンサンブルズのコンセプトを、今度は逆に音楽のライブの現場に持ち込みなおしたら面白いことになるのでは・・・今はそんな予感がしています。できることなら山口の地域のコミュニティを巻き込んで、「ENSEMBLES」のライブヴァージョンをやっていけないだろうか・・・そう思って、YCAMの阿部一直さんに今新たな提案をしています。

今後の活動予定や挑戦したいことなどを聞かせて下さい。

今回の制作を通じて、アンサンブルズというコンセプトに大きな可能性を感じています。感じすぎて、脳みそが沸騰しています(笑)。展示作品も含め、今回YCAMで始まったこの方法論を、この先どう発展させていくか、今の最大の興味はそこです。

なんだか、熱く語りすぎているかもしれませんが、この先、あと20年生きれるのか、30年生きれるのかわかりませんが、残りの人生、すべてこれにかけても悔いなし・・・ってくらい本人の中では、節操もなく盛り上がっています。

「大友良英 / ENSEMBLES」展
会期:2008年7月5日〜10月13日
会場:山口情報芸術センター[YCAM] 館内各所
時間:スタジオA・B 12:00〜19:00/図書館展示(平日)19:00〜(土・日・図書館休館日)17:00〜/ホワイエ・2Fギャラリー・中庭10:00〜20:00
入場無料

インスタレーション1「quartets」
会期:7月5日〜9月23日(A期)
会場:スタジオB
アーティスト:大友良英+木村友紀+ベネディクト・ドリュー+平川紀道+石川 高+一楽儀光+ジム・オルーク+カヒミ・カリィ+Sachiko M+アクセル・ドゥナー+マーティン・ブランドルマイヤー

インスタレーション2「orchestras」
会期:8月23日〜10月13日(B期)
会場:スタジオA
アーティスト:大友良英+高嶺格+多数のミュージシャン

インスタレーション3「without records」
会期:7月5日〜10月13日
会場:ホワイエ〜2Fギャラリー
アーティスト:大友良英+青山泰知
「ハイパー wr プレイヤー -ウィズアウトレコーズ ハイファイ ヴァージョン」
会場:2Fギャラリー
アーティスト:大友良英

インスタレーション4「filaments」
会期:7月5日〜10月13日
会場:山口市立中央図書館(YCAM内)
アーティスト:Filament[大友良英+Sachiko M]

Text: Yurie Hatano, Mariko Takei

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