
東京に「たね」を撒きに男がやって来た。その名はファブリス・イーベル。環境問題をテーマとした作品を多く手がける、フランスを代表とする芸術家だ。現在、ワタリウム美術館で開かれているファブリス・イーベル「たねを育てる」展では、彼が撒こうとしている「たね」について知ることができる。
G8北海道洞爺湖サミット開催年ということも手伝ってか、エコや環境がどこでも流行のテーマとなっている今、環境問題をテーマとしたアートを見せることは、単なる流行モノとして見なされる危険性を孕んでいる。しかし『僕は森を育てるように、アイディアを育てている。数年前フランスで森を造ろうと思い立ったが、それは僕がアートでこれまでやってきたことと、同じことをやろうとしていたのに気が付いたんだ。』と作家が語るように、ファブリス・イーベルのそれは、流行とは違うところに存在する。否、むしろ彼のこれまでの活動が昨今の流行を生み出したと言ってもいいだろう。
クマの形をした案山子(かかし)に出迎えられて始まる展示は、カリフラワーの頭と、アボガドの胸、ピーマンとバナナの腰にキュウリの足をもった 「MIT MAN」(これはMIT、マサセッチュ州工科大学の科学者との共同作品で、それぞれの体の部分を造る野菜で構成されている野菜男)、農業に関する実験的なアイディアを書き留めた数々のドローイング、都会で蜂蜜をつくるプロジェクトといった、実験、都市、農業、環境、といったキーワードを軸に制作された作品が並ぶ。
展示に加えて「アートで街をやさい畑にするプロジェクト」と題し、ワタリウム美術館がある青山キラー通りを中心とした、外苑前、原宿辺り一帯を巻き込んだプロジェクトも行われている。ファッションショップの前に置かれた花壇には、 ちょうど枝豆がなっていて、車が行きかう都心の道路脇でも野菜が育つ事実に驚くし、交差点のところに作られた畑では、ナスがまさに食べごろを迎えていた。
物事のプロセスを見せることで、観客に今の環境を考えるキッカケを与え続けてきたファブリス・イーベル。日々の食事だとか、家から駅までの道の花壇だとか、ほんの小さな日常に目を向ける。身近な環境を考えることが、つまるところ大きなことに繋がっていく…。そんなことを改めて感じた。
ファブリス・イーベル「たねを育てる」展
会期:2008年4月26日〜8月31日(月曜、5月5日、7月21日は開館)
会場:ワタリウム美術館
時間:11:00〜19:00(水曜〜21:00)
入館料:大人1000円/学生(25歳以下)800円
(会期中何度でも入場できるパスポート制)
主催:ワタリウム美術館/ファブリス・イベール展実行委員会/ブルーノ・タウト展実行委員会
ファブリス・イーベル:1961年フランス・リュッソン生まれ。現在はパリ在住。1997年第47回ベニス・ビエンナーレで、フランス館をテレビ局として機能させ、ビエンナーレで起きるすべての出来事をその作品の中に取り込むという斬新なアイデアを発表、最年少で金獅子賞を受賞。2000年を記念し、凱旋門に環境保護をテーマとする作品『時の変化』を制作。2005年振付師プレルジョカージュのバレエ「Les 4 saisons」(四季)で舞台美術と衣裳を手がける。2006年パリのルクセンブルグ公園に新しい彫刻『ルクリ・レクリ』が設置さる。同年、パリ郊外に1000のモザイクを敷き詰めた『動脈』を制作した。2007年パリ中心地にオープンした新しいアート・スペース・Le Laboratorieで、科学者とのコラボレートによる「Food for Thought 展」が開催され、大きな話題となった。
Text and photos: Wakana Kawahito