ブギー

PEOPLEText: Garry Waller

ブギーは、セルビアのベオグラード出身の38歳。90年代に彼の住んでいた街の市民の不安や暴力を題材に写真を撮り始めた。くじでグリーンカードを得た後、すぐにアメリカに渡りブルックリンに住居を構えたのは10年前のことだ。独学で写真を学んだにも関わらず、ストリートフォトグラファーとして高い評価を得ている。世界中で展示が行なわれ、今までに2冊の写真集を出版し、更にこれから3冊がでる予定だ。

ブギー

僕が最初にブギーの作品に興味を抱いたのは「It’s All Good」という彼の初の写真集を見た時だった。ブルックリンのブッシュウィックという場所は、ギャングやドラッグ、そして暴力が横行するエリアで、そこでの暮らしの力強さの描写に惹かれたのだった。ブギー自身が彼の周りで起きることにインスピレーションの限界を感じた後、ブッシュウィックに導かれその後3年間そのエリアの住民や住居などを撮影することになったそうだ。この近辺は、確実にガイドブックに載っているような所ではなく、ブギー自身も写真を撮っていたその時期を、かなり激しいものだったと認めている。

ブギー

結果的には、このような表面化しない社会の片隅での人生の一片を切り取り、「外の人間」として写真を撮ることに彼は魅了されてしまったのだ。時間はかかったが、だんだんとそこで暮らす人々を知るようになり、ギャング、麻薬密売人、麻薬中毒者など、後にむしろ彼らから写真を撮ってくれと暖かい声をかけられるようになった。彼の間違いない不屈の精神とリアリティのセンスが滲み出た写真集は全て白黒のフィルムで撮影され、悲しくもあるが同時にとても魅力を感じる。

ブギー

ブギーにインタビューをしたとき、彼はパワーハウス・ブックスから出版される3冊目の写真集「Belgrade Belongs to Me」の編集にちょうど取りかかっているところだった。戦争を経験し、彼は自身の作品を方向づけるのに迷いはなかったと語る。『常に緊張感があったんだ、発砲やギャングの抗争、犯罪は当たり前だったからね。』と。その結果、激しく、とてつもなく危険な状況でも作品を撮ることができたのだろう。カメラはバリアのような物だったと表現する彼。時にはありえないシチュエーションから彼を逃がしてくれたこともあったようだ。人生において困難な状況を経てきた、とんでもない愛すべきキャラクターのブギー。デリケートな状況でも、うまくなじめるのは、一度会えばすぐに理解できるであろう。心地よいレベルで写真を撮っているかどうかが結果として写真に表れるのはよく知られている事実であろう。彼が何を対象に撮ろうとも、葛藤、困難、ダークユーモアが彼の写真でよく扱われている題材ではないだろうか。日常の平凡なありふれた情景でも作品として残すことができるのが彼の魅力だ。『多くの写真家たちは人々が興味を惹く写真を撮るのにイラクに行かなきゃいけないと思っているだろうが、そんなのは探せば玄関にあるんだよ。』

ブギー

新しい写真集の編集を土壇場でやりなおすことに決めた後、ブギーは次の日に編集者と合う約束があることに不安を見せた。その不安をよそに、彼は自身の作品にこんなにもインスパイアされたことはない、とすぐに切り返した。ブギーはいつもカメラを離さない。例え一緒に歩いていたとしても写真を撮るのに一瞬止まり、そして僕との会話をまた始めたりするのだ。彼の最初の写真集で出会った人々との繋がりはまだあるのかと好奇心から聞いたが、彼は写真とその時の暮らしからは離れ、先に進んだのだと話した。その時期に彼が築いた関係とは別に、そこで暮らすギャングは同じ事を繰り返し、撃ち合いをし、ドラッグを売り、未だに犯罪に手を染めているのだ。

次は何を撮るのかと聞かれ、通りすがりの車の窓から顔を出す犬に素早くレンズを向けた彼。『さぁね、犬の写真集でも作ろうかな。』

Text: Garry Waller
Translation: Junko Isogawa
Photos: Courtesy of Boogie

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