長沼里奈

PEOPLEText: Shinichi Ishikawa

長沼里奈は札幌市内在住の映画監督。1981年札幌市生まれ。高校1年生の時より映画を撮り始めて、高校卒業後はCM制作の仕事、学生とワークショップを行ないながら映画を撮っている。また「映蔵庫」という自主制作映画の上映イベントを企画する団体も主宰している。今回、新作「まぶしい嘘」を発表した彼女に、そのルーツから話を聞いてみた。

長沼里奈
Photo: Minaco Satou

映画はもともと好きだったのですか?

好きでした。といっても、毎日のように映画館に通うとかではなくて、TVでロードショーを楽しむという程度です。好きなのも、ジャッキーチェン、ジブリ(宮崎駿)、スピルバーグ、が今でも好きな映画の基本です。私は同年代の映画を撮っている人と比べて映画って全然観ていないほうだな、と思っています。

長沼里奈
Photo: Satoshi Momma

映画監督になろうと思った理由を教えてください。

一番の理由は映画が好きだから、というのとはちょっと違うと思います。小学生くらいの時からクラス委員とか、みんなをまとめたり引っ張ったりということが好きだったんです。きっと子供心に大きな映画の現場を仕切っている「映画監督」ってカッコイイなぁって思ったんでしょうね。

映画を撮り始めたのは高校一年生の時です。同級生の女の子に出演してもらって撮影していました。以降、私の作品で彼女をずっと撮り続けて行くのですが、当時は監督である私と役者の彼女、ほとんど二人だけの撮影現場でした。きちんとした脚本も作らず台詞も音も無い、どちらかというと「感情」をテーマに撮っていました。

高校が卒業間近になった時、記念に上映会をやりたいなと思いました。それまで作品は外にむけて上映したことはありませんでした。はじめは友達だけ呼んで学校内でアットホームな上映会をと思っていたのですが、ここでも「仕切り屋」の性格が出たんでしょうね(笑)せっかくやるなら「イベント」として沢山の人に自分たちの映画を観てもらおうと企画し「 映蔵庫 」という自主映画の上映イベントを行ないました。これが知り合い以外にも、沢山の人が観に来てきてくれて、自分よりずっと世代が上の映画を作っている人や、その他いろいろな人と知り合うキッカケになったのです。

長沼里奈
Photo: Satoshi Momma

高校卒業の進路はどうしたのでしょう?

大学や専門学校に行って「映画を学ぶ」ということに当時の私はあまりピンと来なかったんです。きっと「感情」を撮っていたということにつながるのでしょうが、技術的な「映画の作り方」よりむしろ湧き上がってくるものを今この瞬間におさめていたいという欲求のほうが強かったです。その都度その都度の感覚的な部分に対しある種のリミットを感じていて撮り急いでいたのかもしれません。だから技術的な部分の学びはきっともう少し後でもいいのかなと思っていました。今はこの衝動を大切にしたいと。

高校卒業記念の上映イベント「映蔵庫」のおかげで沢山の方と出会い色々なところで上映できたり、助監督の経験や大学でのワークショップに呼んでいただいたりとあっという間に時間は過ぎていきました。当時は十代の女の子がどこにも属さず映画を撮っているということが珍しかったのでしょうか、沢山の出会いとチャンスをいただき試すことができました。めまぐるしい中、それでも私は映画の中で「感情」を描き、またでき上がった作品を「映蔵庫」という上映イベントとしてスクリーンで上映することも大切にしていきました。映画を作り、そして上映も自分たちの手で行うというスタイルはこの頃から始まりました。

私のターニングポイントとなる作品に「丹青な庭」(2002年)という映画があります。これは二十歳のときの作品で、日々受ける沢山の刺激の中で自分の映画に対する情熱に多くの方が賛同していただいた中で撮影しました。現場ではプロの方々のサポートで技術的にもクオリティの高い仕上がりになりました。南フランスの映画祭でも上映ができ、またそれ以降一緒に映画を作っていける仲間との出会いもありました。

「丹青な庭」という大きな映画の現場で自分の可能性や、自分に対する見られ方、また自身の未熟さと向きあえたりと多くを学ぶことができました。そしてコミュニケーションの大切さ、伝える、ということも私には足りなかった部分であり大きく影響しました。次の作品に取り掛かる前にそれらについて考えたり試したりする時間が必要だったんだと思います。

そんな中、2004年に「Mixer」というイベントを行ないました。これは過去の作品上映に加えて、ライブパフォーマンス、そして「変化」というテーマでスチール写真の演出を手がけ作品展示もお客さんが体感できるような仕掛けをしました。作品づくりにおいて明確なテーマを掲げたのは初めてでした。私にとってスタッフや観客とのコミュニケーションに対する実験でもありました。

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