山下澄人

PEOPLEText: Yurie Hatano

FICTION(フィクション)は、独特の世界観でコアなファンを魅了し続けている演劇ユニット。これまでにない視点で震災を描き注目を集めた、昨年度発表の「石のうら」に至るまで、東京を拠点に10年以上に渡って約三十本の作品を発表してきている。普通のことを普通に表現する普通じゃない思考。脚本家、演出家、役者として活躍し、また映像作品の監督も手がけるFICTION主宰、山下澄人に、これまでの活動や作品づくりについて話を聞いた。

FICTION

自己紹介をお願いします。これまでどのような活動をしてきましたか。

神戸で生まれて育ちました。19歳から21歳の2年間、北海道の富良野にある脚本家倉本聰さんが主宰する富良野塾というところで役者の勉強を少ししました。その後、役者だけをしていましたが、29歳のときにはじめて台本(みたいなもの)を書いたことをきっかけにしてFICTIONを立ち上げて今に至ります。

FICTIONをはじめたきっかけを教えて下さい。

見る芝居見る芝居がつまらなくて仕方がなかったのです。とにかく何を見てもつまらなかった。たまにおもしろいものもあったのですが、それはもうほんとに稀で、ほとんどはまったくつまらなかった。それと同時に誰かにどこかで選ばれなければ仕事にならない役者という仕事に少し飽きていました。と、書いてみると何だかとてもいやな奴ですが。そんなとき、ある人に「なら自分で書いてみれば?」とすすめられたのです。ある人というのはイッセー尾形さんの一人芝居を演出している森田雄三さんという人なのですが。小学校の作文以来、文というものを書いたことがなかったので「書けるかなあ」と少しだけ躊躇しましたが、つまらないものは分かっていましたので、それさえやらなきゃ後はどうとでもなるかと思って書いてみたら意外とさらさら書けました。もう少し細かなことはいろいろありましたが、とにかくそんなことがきっかけではじまりました。

これまでの作品をいくつか紹介してください。

まず2回目公演のときに上演した「vol.2」というのがあります。「vol.2』というのは2回目の公演という意味です。このときはまだ作品にタイトルをつけずにやってました。作品と距離をとりたかったっていうか、作り手が自らつけたタイトルを、それもちょっと略して口にしているのなんかを見たりして「寒い」とか思っていたのです。ま、まだはじめたばかりで作品を作っていくということについていろいろと戸惑いつつ考えていたのでしょう。内容は、3人の囚人が刑務所で知り合い、簡単に脱獄し、出てみたはいいけど行き場がなくて不安だし寒いしお腹もすくし、結局「戻ろうか」と自ら戻る、という物語でした。まだ2回目でしたが、たぶん今に続く様々な要素はこのときすでに全部入ってた気がします。「簡単に脱獄して自ら戻る」というのを思いついたときは、何だかとても興奮したのをおぼえています。客席は10人前後の日が続きました。それでも「これがフランスから来た老舗劇団とかの出し物ならみんなすごいっていうのでしょうに」とまったく凹んでませんでした。

FICTION
イラスト/山下澄人

スタートしてから3年目ぐらいのときに作った「新世界」という作品があります。スタート時にいた人たちがみんな抜けて、そのあとポツポツと集まってきた今に続くメンバーで、はじめて作った作品です。ですから正確にいうと、ここからがFICTIONともいえます。このときは、台本をあえて作らず輪郭だけを決めて、あとは稽古で作っていきました。本番でも何かが固まりかけると崩したりしながらやりました。海辺の怪しい工場の寮に青年がやってきて、職場内いじめがあったり、同僚の自殺騒ぎがあったり、寮長が遠くへ飛ばされたりといった出来事を経ながら、最初は戸惑っているだけだった青年が、いつの間にか馴染んでくっていうそれだけの話で、最後、登場人物たちが「今日水曜日?」「火曜日」「月曜っすよ」「月曜か」とかどうでもいい話をして、客席に背を向けて立ち小便とかして、舞台からプラプラいなくなったあと、遠くで小さく雷がゴロゴロゴロとか鳴って終わるのですが、そこを自分たちですごくかっこいいと思っていました。このときも客席は閑散としてましたがまったく平気でした。こんなにおもしろいんだから別に客に受けなくてもいいやと思っていました。アンケートに走り書きで「つまんない」とか書かれてても「バカじゃないの」とか笑ってました。初期の名作だったと自分たちで思っています。

それでもやっぱりこのあとぐらいから、あまりにも客が入らなくて、いくら何でもあれじゃないとかいい出す奴が出てきたりして、それならと何の根拠もなく「じゃあ短編にしよう」ってなって、しばらく短編をやり続けました。どうして客が少ないから短編なのかよくわからないのですが、お客さん的にもテンポがよくて見やすかったらしく、見る見る増えて、そしてそれがやっぱり嬉しかったのか、何だか気がつくと受け狙いのコントみたいなことをどんどんやるようになっていました。沢山笑わせて得意になったりしていたのですが、それでもどこかで「何だかなあ」とは思っていました。あのまま続けていたら飽きて辞めていただろうと思います。

FICTION
「歌え、牛に踏まれし者ら」2004

「歌え、牛に踏まれし者ら」は、いうなれば「新世界」のリメイクで、何度目かの節目となった作品です。短編を続けてきたぼくらが、やっぱり長いのをやろうと、長篇をやりだしてから3回目の作品でした。この節目はぼくらにとってとても大きかったと思います。沢山ある中で、どのタイトルが好きだと聞かれれば、ぼくはこのタイトルがとても好きです。けども、ほんとうの意味でのリメイクにはなっていなかった思いがずっとあって、だから、いつかまた作りなおそうと考えています。

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「ヌードゥルス」2005

その次にやった「ヌードゥルス」は、今も再演したい作品です。神話的っていうか、そんな話で、3人の囚人(同じモチーフをくり返しているのがよくわかります)が刑務所を出て、謎の女と山へ入り、そこで大きな猿と知り合いながら麺を作って生活し、猿共々年をとってボケる奴もあらわれて、そして死ぬ、というもので、最後は死んだ者と最初は小さかったけど年月が経って大きくなった木が静かに「春だね」と語らって終わります。沢山の人に「おもしろかったけどよくわからなかった」といわれました。「まったくわかりませんでした」という人もかなりいました。それでもぼくらは、この作品はぼくらのひとつの頂点ではないかと考えていて、今でも迷うとこの作品のことを思い返します。

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