トッド・シャローム

PEOPLEText: Gisella Lifchitz

ブエノス・アイレスを拠点にグローバルに活動するアーティスト、トッド・シャローム。人生とその行方を信じ、今日も至る所でパフォーマンスとクリエイトを繰り返す。

Todd Shalom

ビューティマーシュ」とは何ですか?

ビューティマーシュは僕のウェブサイトの名前です。以前に僕自身が書いた詩の中の「Swirling gentle hairs on forearms into beauty marsh」 という一行から来ています。「marsh(湿地)」は都会から発生する環境汚染の公害を浄化することができます。そしてまた「beauty marsh」は「beauty mark」、美しいあざやほくろの解釈も含んでいます。音は僕の詩にとって非常に重要な部分で、詩を書く時、音は言葉と共に浮かびます。言葉からイメージが形成され、やがてリズムを生み出すのです。こんな感じで、言葉遊びをしながら詩のボキャブラリーを作り出していきます。

あなたは自分自身をどう定義していますか?ビジュアルアーティスト、フォトグラファー、あるいは詩人として捉えているのでしょうか?

僕が活動する上でそれは些細なことなので、自分を断定して区別するのは難しいしそんな枠組みを壊したいと思っています。だけど僕は文字、サウンド、映像作品を制作しているアーティストと言えるでしょう。

Todd Shalom

作品について教えて下さい。あなたのキャリアの中での代表作は?

うーん、自分にキャリアがあるとは思わないけど、その言葉は少し目的志向過ぎるように聞こえるね。僕はただ、シンプルにもの作りをするだけです。僕の記憶の中でも気に入っている出来事は、数年前にパフォーマンスを始めた事。それからはこれが他の人とコミュニケーションをダイレクトに取れる、一番のいい方法になったよ。同時に僕を一番不安にさせて、とても脆い状態にさせているとも言えるけど。

サウンドウォークを始めてからは、感覚と経験を参加者と共有できるようになって、成功という点で考えるとしたら非常に上手くいっていると思います。イスラエルのテル・アビブでのサウンドウォークの翌日、「あなたのおかげで、今街中の音がまるで音楽の様に聞こえるの」と参加者の一人から電話をもらい、彼女の眠っていた感覚意識を目覚めさせる手助けができて本当に嬉しい気持ちになりました。そしてその出来事が、制作する度に未だ僕の助けになっています。

どうして制作するのか? 誰の為で、何の為か? って。僕自身が作品に対してナルシストになり過ぎていて厳しさに欠ける時、目を覚ましてくれる。僕が詩を書く理由もそれだしね。

Todd Shalom

サウンドウォークとは実際どんなものですか?あなたの見解や記憶に残っている体験談を聞かせて下さい。

サウンドウォークを始めようと決めたのは約3年前。カリフォルニアで音響の研究をしていたことがきっかけで、アコースティック・エコロジーの分野について1970年代のバンクーバーの芸術家の活動をリサーチしている時です。彼らが「サウンドウォーク」という言葉を作り出しました。

音というものが我々の日常生活の中に溢れているということを人々に気づかせることが重要だと考えています。僕たちは非常に視覚的文化の中にいて、言ってしまえばテレビや印刷物などに囲まれているので、音響というものは西洋の文化だとよく認識されがちです。与えられた環境の中で聞こえてくる音は、自分達が普段どう生きているかという事を知らせてくれます。例えば、人はそれぞれ違ったユニークな音質を持っていて、足音も個人ばらばらだし、鍵を開ける音やジッパーの音、そして声―全てとても個性的な音なんです。だけどこの先、特に大都市での産業発展からなる騒音、バス、バイク、ビルの建設の音によって、多くの音は隠されてしまうだろうし、僕達の生活音やまた別の音に耳を傾けることも難しくさせるレベルとなっている。

僕は基本的に自分が生活している場所でサウンドウォークを行います。これは僕が密に知っているから。以前のサウンドウォークがサンフランシスコであり、テル・アビブ、ニューヨークと続きそしてここブエノスアイレスで行いました。

Todd Shalom

現在は何を制作していますか?

今は2つのプロジェクトを進めています。ブエノスアイレスでは「once」という写真の展覧会のために音響を制作しています。この地域はマンハッタンにあるガーメント・ディストリクトとチャイナタウンの熱気をかなりミックスしたような場所です。ちょうどレコーディングを終えたところで、今はギャラリーにあるスピーカーで音を出して構成をまとめている所だよ。

もうひとつは、インタラクティブな要素がある作品に取り組んでいています。これは「Sympathetic Twin」と呼んでいて、長い時間をかけています。僕はMIDIコントローラー(デジタル・テルミンのようなもの)で自分の身体から発する音と、僕の詩のキーワードとなる部分の音の超音波を融合して制作しています。これは即興的なパフォーマンスで、繰り返し続けることで深い内面に踏み込める。僕はその時にビデオの構成を心に描きます。

新しいプロジェクトについて教えてください。

2008年に新しい共同プロジェクトを2つ発表するつもりです。

一つ目はアーティストでディレクターのニーゲル・スミスと共に、パブリック・パフォーマンスをします。公衆の人々を多数集めて、情報の信憑性とその明確さについて対話をするのが目的で、インターネットで得られる穴だらけの情報と書物の中の情報を比較するので、僕達の試みはまさに古代ローマ時代の「バトルロイヤル」みたいですね。

2つ目は、工芸家、マイク・ディンプフルと共同制作している「Snuggle」というホモセクシャル・コミュニティの雑誌です。僕達は何かもっとドメスティックな、奇妙な内容ばかりの雑誌があってもいいと思っいました。

どうしてあなたはアルゼンチンにいるのですか?その理由は作品に何か影響がありますか?

去年の夏ブエノス・アイレスを訪れた時、ものすごくフレンドリーな人々と、僕が会ったアーティスト達の情熱、そして街全体の持つ楽観的さの虜になったんだよ。この春に帰らなければいけなかったんだけど、ここには小規模だけど進歩的なポエムコミュニティーがあって、その上、ビジュアルと音波、そして面白いリズムを見つけてしまったんだ。僕はここにいて何が起こっているのか確かめることにしたよ。学びながら制作するために。そして気楽でいられる場所を得るためにね。

Text: Gisella Lifchitz
Translation: Yuka Fujita
Photos: Gisella Lifchitz

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