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ヨーゲン・エヴィル・イクヴォル「スペースシャトル・プロジェクト」

HAPPENINGText: Arun Koriech

ロンドンを拠点に活動するアーティスト、ヨーゲン・エヴィル・イクヴォルは自分で作り上げた宇宙船で冒険を始めたところだ。

彼のスタジオでもあるその宇宙船に足を踏み入れると、内部は煌々と輝いていて、この計画に費やした苦労のほどが見てとれる。澄みきった銀色の光沢は圧倒的な美しさを持つ。物体は普遍的な存在へと組み込まれてしまい、その同一性を失している。今となってはその形態だけが意味を為す。ところが、それすらこの金属箔の世界の中では歪められているのである。


Jorgen Evil Ekvoll

エヴィルは、周囲の環境のあらゆる影響を無くするために、この空間内にある総てのものの同一性を破壊してしまおうと努力したのだ。実際、彼は現代の文化が根本で持つもの、つまり個人の自己同一性、それぞれの個人が持つものでその人を区別する、というような要素を排除している。無菌室とも言うべき、また個人性を排したこの空間は、ヨーガン・エヴィルが儀式の過程として定めるものにとって必須となっている。

エヴィルは彼の空間内の総てのアイデンティティだけではなく、彼自身のそれをも消去しようと目論んだのは、上で述べたような儀式の場合において、である。彼が自分自身を包んでしまったこのカプセルは、それと同時に彼を覆う膜でもある。自身と社会の間に帳を垂らしてしまい、9日間の間、彼は「宇宙」空間に解き放たれるであろう。外界との連絡はこの旅の9日間、完全に遮断される。

ペルシアのアッタールが中世に著した「鳥たちの集会」という詩に酷似しているのだが、この旅は、自己および社会的な文脈における発見の旅なのである。日々、エヴィルは、彼が思うことがその人間性に刻み込まれるような状態に己を保つであろう。誕生、発見、疑問、願望、忍耐、統制、記憶、そして畏怖。この八個の局面は結び付けられ、一連の発展へとつながるだろう。

この八の言葉のそれぞれに、エヴィルは彼のサイトにある映像作品や文章を通してその思考を投影することだろう。超自然的な錬金術の様式のように、エヴィルは自身と周囲の空間の、総ての「土台となる」要素を取り去り、あるいは分離、除去して、それらを「署名入り」で、もしくは錬金術師のように「黄金」として現実世界に還元するようなのである。

彼の計画は二つの異なる要素に分岐しているようだ。この計画は視覚的に感動的だったり、冗談めかした隠喩であるだけではない。そのコンセプトと上記の発展へとつながる八つの局面は神秘的、詩的であり、充分に研究されていて、さらにはエヴィルにとって、間違い無く達成すべき課題ともなるだろう。

この9日間の旅の成りゆきはインターネット上で見ることが可能だ。おびただしい数の監視カメラが彼の宇宙船内の様子を四六時中、ライブ・ストリーミング映像で映し出す。

Text: Arun Koriech
Translation: Yuhei Kikuchi
Photos: Arun Koriech

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