ジョン・カリン

PEOPLEText: Matt Smith


Heartless, 1997, Oil on canvas, 44×36 in, Collection of Nina and Frank Moore, New York. Courtesy Andrea Rosen Gallery, New York. Photo: Fred Scruton © John Currin

90年代後半になると、彼は一変して背景が黒のヌード画を多く描くようになる。これらの作品では、カリンの純粋な喜びが表現されているが、こういった作品で見受けられないのは、これまでの作品で見られたコンセプチュアルな強さや、動きの少なさだ。伝統的な方法で描かれているヌードの女性達はしなやかで、いわゆるよく見られるようなプロポーションだ。カリン自身によると、こういった作品ではわざと社会や政治的題材から懸け離れ、幻想的な世界に迷い混んだような作品に仕上げたかったという。(*2)


The Pink Tree, 1999, Oil on canvas, 78×48 in. Hirshhorn Museum and Sculpture Garden, Smithsonian Institution, Joseph H. Hirshhorn Purchase Fund, 2000. Courtesy Andrea Rosen Gallery, New York. Photo: Fred Scruton © John Currin

このように彼の歴史を追ってみると、一種の連続性を見い出すことができる。まず第一印象で、何らかの違和感を持たせるのが一つ。しかしそんな印象の背後には、皮肉と賢さのベールが垂れ下がっており、この作品は率直的で、正直で、そして実在するものや人を描いているのだろうか?という疑問を抱かせるのである。浅はかだとか、もしかしたら作者は女嫌いなのではないかと思わせるよりも、カリンの芸術では、故意に「おふざけ」と「陳腐な表現」を包み込んでいるのだ。(*3)


Fishermen, 2002, Oil on canvas, 50×41 in. Sender Collection, New York. Courtesy Andrea Rosen Gallery, New York. Photo: Oren Slor © John Currin

カリンのヌードや全裸に近い人物を描いた作品は、セクシュアルだが実際はかなり受動的でもあり、性を描いた作品でもある。こういった作品を良く思わない人もいるのも事実だが、その一方で、そういったやや品性に欠けたものを組み合わせてみたり、実在しそうな男性の裸体を描くということは、芸術的には挑発的なアイディアであり、これはマネの「オランピア」(1865年)に通じるものがある。

*1. 「The Elegant Scavenger」ザ・ニューヨーカー 2月号, 1991年発行
*2. 「Interview with John Currin」ロッチェル・ステイナー著, ジョン・カリン展覧会カタログ P77, 2003年発行
*3. 「John Currin: Oeuvres/Works: 1989-1995」エタン・ドネ著, P40, 1995年発行

John Currin
会期:2003年5月3日〜8月23日
会場:Museum of Contemporary Art, Chicago
住所:220 East Chicago Avenue, Chicago, IL 60611
TEL:+1 31 280 2660
https://www.mcachicago.org

Text: Matt Smith
Translation: Sachiko Kurashina
Photos: Courtesy of the Museum of Contemporary Art, Chicago

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