トゥーンズ・キャンプ

HAPPENINGText: Chibashi

今井トゥーンズといえば、MTVの「トップ・オブ・ジャパン」のオープニングアニメや「C.C.レモン」のコマーシャル、セガの「ファイティング・バイパーズ2」のキャラクターデザインなどで注目を集め、若者から絶大な支持を受けるイラストレーターだ。SHIFTでも以前にトップページのイラストを飾ったり、ガスブックなどでもフィーチャーされているのでご存じの方も多いだろう。

当時からカルチャーを語る上でのキーワードであった「ジャパニメーション」の文脈や、テクノなどのカルチャーを背景とした時代感を象徴するがごとく、彼のイラストレーションは国内外で数多くのファンやフォロアーを生み出した。そしてその非常に影響力の高い画風で、今も一気に時代を突き進んでいるのである。

4月28日から6月10日まで代官山の「ギャラリー・スピークフォー」にて、今井トゥーンズ氏の個展が開催されている。このインタビューでは、この展覧会についての話と、クリエイターとしての彼の側面についてを紹介していきたい。

まずは、この展覧会をやることになった経緯について教えてください。

この展覧会は、キュレーターの吉田さんからお話があって実現しました。もともとは3人展ということだったんだけど、急遽個展を!ということになった。だから非常に慌ただしいスケジュールの中での開催という感じでした。この展覧会のタイトルである「トゥーンズ・キャンプ」というのは、吉田さんが「キャンプ」というキーワードを提案してくれたことからはじまったものです。「キャンプ」は現代美術としても面白いキーワードだったので、僕としてもチャレンジしてみようと思いました。

まず最初は、テントの中に絵を描こうと考えました。でも実際はテントって素材的にはじいたり、逆に裏ににじんでしまったりなかなかうまくいかないんですね。今ここに展示してあるテントは実は二代目なんです。描くの失敗しちゃった。こうして十分な素材の研究ができなかったので、それは断念することにしました。

会場全体はインスタレーション的に作品を配置してあります。結局テントに実際泊まり込んだりしちゃって、自分がキャンプしてるんじゃんというのはありましたね。(笑)

作品としては、今回のために描きおろしたイラストがあります。デジタル上でコラージュした写真の上に描いていったもので、それを大きく出力しました。それから車のドアにペインティングしたもの。これの一部は実際にお客さんの前でライブペインティングしました。会期中にも少し描き加えたりもしています。他の展覧会から流用している立体作品もあります。コンセプト的には合致しているのでここでも使っています。その他プレイモービル(おもちゃ)のテントにペイントした小作品や、テントの中にはライトボックスになっているイラストがあります。あと、ビデオでアニメーションを流しています。

今井さんの作品は、常に頭の中にストーリーがあって、そのストーリーの中の1シーンを描いているそうですね。今回のイラストはどういうストーリーがあるんですか?

舞台はアメリカの片田舎の針葉樹の森のある寂しいキャンプ場をイメージしました。イラストの背景に使っている写真はイメージに近いものを雑誌から集めてきてコラージュして作りました。写真は昔のガソリンスタンドによくあった白樺の引き伸ばし写真とかモノ的に人間の中で扱われる自然。そんなイメージです。この人気の無いキャンプ場に、よくわからない家族がキャンプに来ている。本当は家族かどうかもわからない。血縁の家族ではなく、ヒップホップ的な意味での「ファミリー」なのかもしれません。

僕は第三者的にそれを観察しているという状況なんです。彼らの素性はよくわからないんだけど、決して仲はよさそうじゃない。本当だったらみんなでキャンプなんかするはずもない。そんな家族なんです。だから、彼らはキャンプを楽しむでもなく、スプレー缶を片手にいろんなところに落書きをしているんです。ストーリーにするのは、作品の概念を論ずる事を必要とした時それ以上でもそれ以下でもなくなるのがいやだからです。コンセプトのフローチャートをストーリーに置き換えて表現することがこの展覧会には必要だったし空間と雰囲気を自分でも頭の中で味わいながら想像したいから、引っかかるキーワードを置いていった。それがライブペイント、インスタレーションにつながっていくと思ったし。僕もこのキャンプ場に参加したかった。だから勝手に見た人も考えてもいいんです。

キャンプ場だけに、木や自然に向かって落書きをしているわけですか・・?

落書き(グラフィティ)といえば本来は人間社会の中でフキだまってあふれた主張ですよね。それは社会内で機能する。それが自然社会の中に持ちこまれるという「異物感」を表現したかったんです。それは自然界の中の人類のような。人間は、キャンプ場やゴルフ場で自然と戯れた気分になったりするけど、これらは自然破壊の上に存在しているものです。彼らはこうした自然に対してメッセージを送ってしまうようなファミリーなのか。それともただの破壊主義ジャンキーなのか。彼等なりに主張はあるのか。多分自然破壊が云々というメッセージ性のあるものではなく、自然は僕達のことなんて眼中になく只、有為転変していく。それを感じたとき、自分たちは小さく辛く…その中にどうしても自分の存在を刻みたくなるのが人類でそれは多分どこいっても同じなんだろうと。月の第一歩も結局は国家間の争いで発生したような部分。存在の有無を人類は自然界には理解できない言葉と主張で、存在していることの「意味の意味付け」をタギングしていく…。だからグラフィティーというチョイスなのでしょう。

グラフィティといえば、今井さんの作風に強くグラフティ的な感覚を感じますが、今井さんはグラフティをどう思いますか?

自分の作品は、よくアメリカンテイストとかバッドテイストと言われていたし(笑)実際グラフィティからも影響を受けています。グラフィティに関わらず、マンガ、ヒップ・ホップ、テクノとか自分の好きなものを自分流にいっぱい集め、自分自身の表現で常にひっかかりになるようにしています。自分にも伝える相手にも。それは日々が沢山の情報や影響されることばかりで複雑な今の感覚をみんなと共有したいから。あんまり一つの表現に固執はしたくないし、難しい。

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