シネトリップ

HAPPENINGText: Judy Finn, Mark Griffith

東ヨーロッパで毎月開催されている非常に珍しいダンスミュージックのイベントを紹介しよう。光と音、空気、水、そして過去と未来をミックスするイベントだ。イベントのタイトルは、シネトリップ。人々は、地底深くから湧き出る温水に浸かり、ハウスやテクノのサウンドの鼓動を感じ、壁や天井に映し出されるスライドショウなどの映像を楽しみつつ、中世風のつくりの複合温泉を満喫する。

ルダシュと呼ばれるこの複合温泉は、ハンガリーの首都ブダペストにある7つの温泉場のひとつ。ブダペスト市内には、120を超える温泉源が沸き出ているが、このルダシュは、他のものとはちょっと違う。トルコ風の構造のルダシュの起源は、オットーマンが支配していた頃の16世紀トルコにまで遡る。実際、トルコ風呂はトルコ人によって造られたのだ。男性専用として長い間使われてきたが、この月に一度のイベントが開催される日にのみ、性別を問わず若者達に解放されている。ちなみに、次の開催は2月2日。

この神聖なる場所に女性が足を踏み入れたのは、400年の歴史の中で始めてのことなのだろうか?『前世紀にも、ここでこのようなイベントがあったとは思わないか?』と、悪魔のように赤いスポットライトに照らされて温かいミネラルウォーターに胸まで浸かった僕達を前に、物知り顔に眉を上げながら僕の友人が言った。トランスの曲に合わせてザブザブと音を立てている水着を着たグループの影をぼんやり見つめながら、確かにそうかもしれないなと思った。

その間中、真っ赤なライトが、列柱のある半円形のトルコ風呂の天井に漂う湯気を照らし出していた。湯気が立ち上るとその表面がきらきら輝き、若者達が、色とりどりの光の中で泳ぎ、音楽に合わせて人魚のように体をよじらせていた。真夜中になるとベリーダンスのショウが始まる。しなやかな体の女性が、僕達は何者なのかということをダンスの中に表現していた。

シネトリップは、セクシーなイベントだ。それに加えて、アンダーグラウンドのDJ達が、頭上の照明やビデオに合わせて音楽をプレイする。このようなイベントは、他のどこでも見ることができないだろう。古代世界のデカダン派とリラックスムードの伝統を持つイベントだ。おそらく、東ローマ帝国がまだそこには生き続けているのだろう。

36℃を保つトルコ風ドームの下の硫黄の温水プールの中で、ハンガリー人の創造力を独自に物語るベリーダンサー達を赤いライトが照らし出す。シネトリップは、3年目を迎えるイベントで、そこでは、レイブとコンテンポラリーアートがひとつになり、数百人もの30代以下の若者達がブダペストで最もホットなパーティーに参加している。シネトリップは、ハンガリーを代表するクリエイティブなものへとなりつつある。

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