ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ
HAPPENINGText: Alma Reyes
第2章「地獄から帰ってきたところ」では、不安、罪悪感、嫉妬、自殺衝動、殺意と敵意、人と心を通わせることや依存することに対する恐れ、拒絶されることへの不安など、心の内にあるさまざまな葛藤や否定的な感情が作品をとおして語られている。人間の頭部を象った《拒絶》(2001年)はその一例で、テキスタイルの柔らかさと拷問を受けたような苦悶の表情との間に矛盾を感じさせる。ブルジョワは、彫刻を創作することを一種のエクソシズム(悪魔払い)であり、望ましくない感情や手に負えない感情を解き放つ方法だと信じていた。
ルイーズ・ブルジョワ《父の破壊》1974年 Collection: Glenstone Museum, Potomac, MD, USA, Photo: Ron Amstutz © The Easton Foundation/Licensed by JASPAR and VAGA at Artists Rights Society (ARS), NY
ブルジョワの芸術活動の一つの頂点である独創的な作品《父の破壊》(1974年)は、彼女の支配的な父の記憶を粉々に砕き、男根や乳房のような形が肉や体の器官を見下ろすカニバリズムの舞台へと変貌させたもので、生贄と復讐を暗示している。ブルジョワは、母親と兄弟が父親を食すという幻想は、不気味に赤く照らされた子宮のような部屋に閉じ込められ、犯罪者の監獄のようだ。
ルイーズ・ブルジョワ《カップルIV》1997年 Photo: Christopher Burke © The Easton Foundation/Licensed by JASPAR and VAGA at Artists Rights Society (ARS), NY
このような喪の強さ、感受性、別離への恐怖は、《カップルIV》(1997年)でも感じられる。黒い布を身にまとった首のないカップルは、愛情で絡み合いながらも、空気のないガラスケースの中で窒息している。女性の義足は、互いに依存し合うことの不均衡と危険を象徴している。
ルイーズ・ブルジョワ《雲と洞窟》1982-1989年 Photo: Christopher Burke © The Easton Foundation/Licensed by JASPAR and VAGA at Artists Rights Society (ARS), NY
本展の最終章「青空の修復」では、彼女の芸術がいかにして、意識と無意識、母性と父性、過去と現在のバランスを整え、心に平穏を取り戻そうとしたのかに迫る。同名の作品《青空の修復》(1999年)は、彼女の2つの家族に捧げられた5つの穴が青い糸で縫われており、回復と再生の力を暗示している。金属と木で制作された穏やかな《雲と洞窟》(1982-1989年)は、女性の身体の丸みを帯びた曲線によって強調された青い風景の隠れ家へと作家を誘ったようだ。
ブルジョワにとって非常にデリケートな素材であった布は、死後も彼女の記憶を残すと信じていた。テキスタイルは、母のドレスや夫の下着など、それらを所有する人々と彼女を結びつけていた。幼い頃、母親がアンティークのタペストリーを手仕事で修復するのを見て、その手仕事の技術が彼女の織物への特別な愛情に伝わった。縫い合わせる、繋ぎ合わせるという行為は、別れや捨てられることに対する恐れを払いのけることを象徴すると同時に、一家のタペストリーの修復工房を営んでいた母親と自分を無意識のうちに重ね合わせていることの証でもある。
ブルジョワが語っているビデオをじっくり見ることをお勧めする。彼女の声と表情は、彼女が人生で経験した底知れぬ深い苦悩を刻んでいる。彼女自身の言葉を借りれば、『私の子供時代は決して魔法を失わず、神秘を失わず、ドラマを失わなかった』。
ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ
会期:2024年9月25日(水)〜2025年1月19日(日)
開館時間:10:00~22:00(火曜日17:00まで)
会場:森美術館
住所:東京都港区六本木6丁目10−1 六本木ヒルズ森タワー53階
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://www.mori.art.museum
Text: Alma Reyes
Translation: Saya Regalado
Photos: Ron Amstutz, Christopher Burke, Philipp Hugues Bonan, Mori Art Museum © The Easton Foundation/Licensed by JASPAR and VAGA at Artists Rights Society (ARS), NY