ル・コルビュジエ 諸芸術の綜合 1930-1965
HAPPENINGText: Alma Reyes
近代建築の巨匠と呼ばれるル・コルビュジエ(1887-1965年、本名:シャルル=エドゥアール・ジャヌレ=グリ)は、建築家、デザイナー、画家、都市計画家、作家として50年に渡るキャリアを積んだ。彼の画期的な建築物は、近代建築運動の中核を形成し、また彼の色彩理論は、建築のみならず視覚芸術の他分野においても革新をもたらした。
パナソニック汐留美術館で3月23日まで開催中の「ル・コルビュジエ 諸芸術の綜合 1930-1965」展では、1930年代以降に彼が手がけた絵画、彫刻、素描、タペストリー、そして後期の建築作品も併せて紹介されている。これらの業績には、総合芸術に対する彼の詩的なアプローチが含まれている。また、フェルナン・レジェ、ジャン(ハンス)・アルプ、ワシリー・カンディンスキーといった同時代を生きた先駆的な芸術家たちの作品を対峙させることで、当時の芸術潮流における彼の立ち位置も浮かび上がらせる。
ル・コルビュジエ《レア》1931年、大成建設株式会社蔵
ル・コルビュジエは、貝、骨、流木といった有機的な収集物の形態を、建築と絵画に取り入れ、それらを「詩的反応を喚起するオブジェ」と命名した。《レア》(1931年)は、開いたドアから覗く巨大な牡蠣と、木の幹の前に置かれたテーブルの上にヴァイオリンが描かれ、シュルレアリスムの気配を漂わせている。その隣には、レジェの《緑の背景のコンポジション(葉のあるコンポジション)》(1931年)があり、木の幹を背に、ネジのような部品や鉄くずが混じった、長く大胆な緑の葉が描かれている。両方とも、有機物と工業製品で潜在意識を養う夢のような幻想的なイメージを共有している。
ル・コルビュジエ《マッチ箱と二人の女》1933年、森稔コレクション蔵
同じ展示室にある《ランタンのある危うい調和》(1931年)にも、ポット、マッチ箱、タバコ、六角形のガラス、そして画面中央にはランタンといった日常的なオブジェが集められ、温かい鍋と冷たいガラスの対比が表現されている。《マッチ箱と二人の女》(1933年)は、右側に貝殻のような女性の歪んだ身体が描かれ、ブルネットの髪と巨大な手が上の開いたドアの向こうの黒い空間に潜んでいる。展示室中央には、アルプの大理石の彫刻《地中海群像》(1941/65年)があり、人体と自然の形との流動的な関係性を強調している。
「第2章 諸芸術の綜合」展示風景より、フェルナン・レジェ《誕生日》1950年、埼玉県立近代美術館蔵 / ル・コルビュジエ《奇妙な鳥と牡牛》1957年、大成建設株式会社蔵 / ル・コルビュジエ《静物》1965年、森稔コレクション蔵 Photo: Alma Reyes
1930年代後半になると、ル・コルビュジエは、より鮮やかで透明感のある、大胆な色彩構成を特徴とする大型のフォーマットに移行した。ル・コルビュジエの円熟期の創作活動を理解する鍵が「諸芸術の綜合」の概念である。1950年代には、家具、日用品、彫刻、絵画、壁画、タペストリーなど、人の全感覚を満たす詩的環境を創り出す、統一的な枠組みを構想した。展示室のひとつには、計3枚の巨大なタペストリーが展示されている。左はレジェの《誕生日》(1950年)、中央は《奇妙な鳥と牡牛》(1957年)、右は《静物》(1965年)で、いづれも日常生活でよく見られるモチーフを取り入れている。
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