デイヴィッド・ホックニー展

HAPPENINGText: Alma Reyes

今回出展された肖像画の中でも、《クラーク夫妻とパーシー》(1970-71年)は人気のある作品だ。サイズが大きく、横幅は3メートルある。本作はファッション・デザイナーであるオジー・クラークと、テキスタイル・デザイナーである妻のセリア・バートウェル、そしてその飼い猫であるパーシーを描いたものである。夫妻は見つめ合わずに画家(ホックニー)の方を向き、猫だけが窓から外を見つめている。どうしても夫妻の仲が気になってしまう。バルコニーのシルエットは、主題である夫妻を分ける本作の中心点として機能している。夫妻と周囲に対して無関心さを示す飼い猫。椅子に腰掛けるのは妻のセリアではなく夫のオジー。開け放された窓に象徴される夫妻間の空虚な分断は、結婚生活の破綻を示唆している。


《クラーク夫妻とパーシー》1970-71年、テート蔵 © David Hockney

ホックニーはこのような象徴的な手がかりを《両親》(1977年)でも用いている。郷愁と穏やかさの魅力溢れる作品だ。芸術と生活両方の要素を持つ本作では、読書に没頭するホックニーの父親をうまく描き出している。一方で母親であるローラは、じっと描き手であるホックニーの方を見つめている。ホックニーは母親の左側から光を当て、母親に温かみを持たせている。父母の間にある鏡には、ピエロ・デラ・フランチェスカの《キリストの洗礼》のポストカードが映っており、彼らのキリスト教への信仰が示唆されている。中央にある緑色のキャビネットの一番下の棚には、18世紀のフランス人画家であるジャン・シメオン・シャルダンに関する本が置かれている。シャルダンは日常生活の風景を描いた画家として知られている。ソロ・ポートレイトを展示した展示室は必見だ。数ある作品の中でも、格子縞のスーツを着たホックニー自らを描いた《自画像、2021年12月10日》(2021年)と、《ブルーノ・マーズ》(2018年)は、特に目を引いた。


「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景、東京都現代美術館、2023年《2022年6月25日、(額に入った)花を見る》2022年、作家蔵 © David Hockney assisted by Jonathan Wilkinson Photo: Alma Reyes

ホックニーはしばしば複数視点を取り込んで、作品に驚きをもたらし興味をそそらせる。大型フォト・ドローイング作品である《2022年6月25日、(額に入った)花を見る》(2022年)は、間違いなく鑑賞者の関心を引いていた。ネイビーブルーの壁いっぱいに展示された20の花の絵を、2人のホックニーが画面両サイドの異なる椅子に座って鑑賞している作品だ。ホックニーは鑑賞者にとって親しみがあり、また難解でもある設定をすることで、時間と空間の境界に挑んでいるのだ。


「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景、東京都現代美術館、2023年《スタジオにて、2017年12月》2017年 © David Hockney assisted by Jonathan Wilkinson Photo: Alma Reyes

最後にご紹介する《スタジオにて、2017年12月》(2017年)は、ホックニーの存在をそっくりそのまま封じ込めたようなフォト・ドローイング作品だ。7枚の紙、7枚のディボンド(アルミニウム複合材料)にマウントされている。本作ではホックニーはハリウッド・ヒルズのスタジオで自作に取り囲まれ、中央で誇らしげに立っている。本作では少しずつ角度を変えながら対象を撮影し、コンピューターで解析、統合して3DCGを生成する、フォトグラメトリという技術が使用されている。3000以上もの写真を用いることで、ホックニーは固定された視点から脱却し、多重視点を超越することに成功している。このアプローチは、京都の龍安寺で撮影されたフォト・コラージュ作品《龍安寺の石庭を歩く 1983年2月、京都》(1983年)や、キュビズムのスタイルが用いられた1970年代出版の版画集『ブルー・ギター』でも見て取れる。『ブルー・ギター』は、ピカソの印刷手法を用いた作品だ。

常に斬新なアイディアや革新的な可能性に突き動かされてきたホックニーは、世界を見るということ、マンネリズムと戦うこと、そして生活の容赦ない変化に立ち向かうことについて、根本的に異なる方法を私たちに提示しているのだ。

デイヴィッド・ホックニー展
会期:2023年7月15日(土)〜11月5日(日)
開館時間:10:00〜18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(10月9日は開館)、10月10日
会場:東京都現代美術館 
住所:東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://www.mot-art-museum.jp

※本展は東京都現代美術館のみの開催。国内外への巡回の予定はありません。

Text: Alma Reyes
Translation: Yu Fukai

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