川島優志
PEOPLEText: Aya Shomura
今やその名を目にしない日はないであろう、Google(グーグル)。その社内起業プロジェクト「Niantic Labs」(ナイアンティック・ラボ)が開発したオンラインゲーム「Ingress」(イングレス)が、第18回文化庁メディア芸術祭、エンタテイメント部門で大賞を受賞した 。開発に携わった川島優志氏に受賞の感想などを伺った。
Googleの「Niantic Labs」についてご紹介をお願いします。
「Niantic Labs」は、「Google Earth」の開発者であり、Google副社長の、ジョン・ハンケが創業した、Googleの社内スタートアップです。「Google Map」や「Google Earth」を立ち上げた主要なメンバーから構成されています。
受賞の感想をお聞かせ下さい。
日本で、メディア芸術の専門家からも「Ingress」が高い評価をいただけたことは、大変うれしいですね。創業者のジョン・ハンケは、次のような感想を述べています。『この賞をメディア芸術祭から頂けたことを光栄に思っています。アートやエンターテイメント、テクノロジーの世界を新しい、革新的な方法で広げ、人々を常にインスパイアしてきた偉大な業績と同列に並べられることを恐縮しています。「Niantic Labs」の使命は、物語と、素晴らしい建築物、芸術作品、歴史を新鮮な空気と共に楽しむゲームプレイを融合させ、インタラクティブなエンターテイメントの限界を、家の中に閉じ込めるのではなく、外の現実世界へと押し広げていくことです。それを通して、プレイヤーが世界を、そしてお互いを新しい視点から見るよう促すことができたら、と私達は願っています』。
受賞作品「Ingress」とはどういう物なのでしょうか?
「Ingress」は、モバイル向けの革新的な「MMO」(多人数が同時に参加できるオンラインゲーム)で、街中をミステリーと陰謀、冒険にみちた、インタラクティブなゲーム空間にします。「Google Maps」の技術を用い、プレーヤーは、身の回りの世界を探索し、虚構の世界の神秘的なエネルギーがあふれる隠れた「ポータル」を発見するため、史跡、公園、パブリック・アートを訪れます。進化する「Ingress」のストーリーは、「Enlightened」(エンライテンド)と「Resistance」(レジスタンス)と呼ばれる二つのチームの行動がベースになっています。これらのチームは、世界の支配と人類の運命に関する戦いに関わっています。
プレーヤーは、敵ポータルを攻撃したり、自分の陣営のポータルを守ったりしながら、自己陣営のポータルをリンクでつなぐことで「CF」(コントロールフィールド)という陣地を作り、その面積を競います。
「Niantic Labs」設立のきっかけは何だったのでしょうか?
「Niantic Labs」創業者でありGoogleの副社長でもあるジョン・ハンケの頭の中にはアイディアは長年あったそうです。GoogleでGoogle MapやGoogle Earthの開発に7年携わっていて、Google Earth上で何かを作りたいという思いがあったと聞いています。
そういった中で、モバイルデバイスの普及やウェアラブルデバイスの登場が進み、コンピューティングの進化を促す必要性を感じていました。こういった新しいデバイスの特性を生かし、普及を促進するキラーアプリを作る必要があると思い、その開発のために設立したのが「Niantic Lab」です。
「Niantic Labs」としての制作コンセプトや哲学などを教えて下さい。
「Niantic Labs」のミッションは、エンターテイメントの境界を、家から外へと広げ、技術を使って、リアルな世界と人々を繋ぐということです。テクノロジーを使って、遠くにあるものの情報を得るのではなく、自分の身の回りにあるものをどう感じ取れるか?どう変化させていけるのか? ということに注力しています。バーチャルなものを変えていくのではなく、実際に触れるリアリティのあるものをより面白く、よりミステリアスに変えていくことが我々にとって大切です。
また、「Niantic Labs」では、次に来る流れについて常に考えています。スマートフォンやウェアラブルなどの新しいタイプのコンピュータデバイスが出てきた段階で、こうしたデバイスの普及にはキラーアプリケーションが必要だと考えていました。そこで開発されたのが「Ingress」や「FieldTrip」です。
制作過程で最も重要なことは何でしょうか?
ユーザーの体験を第一に考えること、そして、変化を果敢に取り入れていくことです。複雑になりすぎないよう、シンプルさも大切にしています。
制作時にインスピレーションを受けたりはなさいますか?
降ってくることはあります。ただ、だいたいは多くの時間、うんうんと悩んだ末に、ですね。
オフの時にはどんなことをなさっていますか?
私はまだ子供が小さいのでオフはもっぱら子供と遊んでいます。ジョンはトレッキングをよくしていますね。
次回作へのイメージやプランがあればお聞かせ下さい。
「Ingress」は、完結してしまうのではなく、一つ目のストーリーが終わった後に、第二、第三のストーリーが続いていきます。
また、サバイバルSF小説を基にした「エンドゲーム」、という新たなゲームを出す予定があります。20世紀FOXによる映画化も予定しています。他にも様々なタイトルが2015年中に発表されるので、楽しみにしてください。
SHIFTの読者へメッセージをお願いします。
一日少しずつでも外へ出て、世界を自分の目で見る時間を作ることで、自分の周囲の世界をもっと知り、人とつながることができます。「Ingress」を通して、世界が変化していくのをぜひ味わってほしいと思います。
第18回文化庁メディア芸術祭受賞作品展
会期:2015年2月4日(水)~15日(日)[*2月10日(火)休館]
時間:10:00~18:00 ※金曜日は20:00まで、入場は閉館の30分前まで
会場:国立新美術館、シネマート六本木、スーパー・デラックス他
※開館時間、休館日は会場によって異なります。
入場無料
主催:文化庁メディア芸術祭実行委員会
TEL:03-3535-3501
https://j-mediaarts.jp
Text: Aya Shomura