「リ・ウーファン:ヴェルサイユ」展

HAPPENINGText: Valerie Douniaux

リ・ウーファンは1936年に韓国の山村に生まれ、20歳のとき日本に移り住んだ。そこで彼は哲学を学び、朝鮮半島統合のための政治活動に参加した。同時に、彼はアーティストとしてのキャリアをスタートし、抽象的表現と日本の伝統的な絵画への関心を明らかにした。批判的、理論的である彼の制作手法と作品は、関根伸夫(1942〜)や菅木志雄(1944〜)ら、同世代の日本人アーティストとともに “もの派” を設立し、広く認知されるようになった。“もの派” という名前は文字通り、“ものの流派” と訳す事ができ、グループのメンバーは、石や鋼板など、自然物、人工物に関わらず、シンプルで加工されていないものを選び、それら要素の関係性に主眼を置いた。まったく、今日にいたっても、リ・ウーファンの作品は、まるで生命を持って呼吸し、さらなる不動さを思わせる鋼板と静かに会話を営んでいるかのような岩石を用い、安らかで強力な両極端の感情を湧きたたせる。Portrait of Lee Ufan Versailles © Tadzio

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Relatum L ombre des etoiles Ⅱ © Tadzio Courtesy the artist, Kamel Mennour, Paris and Pace, New York

東洋的な哲学と美学に従い、作品の間の様々な空間は、はなればなれの作品要素と同様の重要性をもち、作品が持つエネルギーは、その環境を取り囲み、それらが設置された限られた空間をも凌駕する。ヴェルサイユ宮殿でのもっとも大きな作品は、完璧なまでにこの原理を描き出し、一種の東洋的なストーンヘンジを想起させる(“星の陰”)。注意深く視界から隠され、曲りくねった径の果てで突然、力強く存在を現す。そしてサークル状に配置された作品は心に焼き付き、同時に心をなだめ、訪れる者にしばし立ち止まって語り合い、あるいは瞑想するよう誘う。

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Relatum La Tombe hommage a Andre Le Notre © Tadzio Courtesy the artist, Kamel Mennour, Paris and Pace, New York

リ・ウーファンが言うように、彼の作品は、『オブジェとしてよりもむしろ空間力学もしくは配置による風景として機能する』ことが重要なのである。彼の作品は、この展覧会のために特別につくられたものであり、周りの環境と共鳴し、またこの場所のユニークな歴史を作ってきた人間、とくにフランスの庭(の代名詞であるヴェルサイユ庭園)を造ったアンドレ・ル・ノートル(1613〜1700)に敬意を表している(“墓-アンドレ・ル・ノートルへのオマージュ”)。作品はまた、緑の葉が風に優しくそよぐような、もっとも謙虚な自然の現れ(“波長の空間”)を、あるいは、リ・ウーファンが『地球に降り立ち、座して囁く』と想像する、北斗七星の輝く美しさへの賛美(“星の陰”)をそっとほのめかす。

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Cotton Wall © Tadzio Courtesy the artist, Kamel Mennour, Paris and Pace, New York

庭園のあらゆる場所に設置された作品は簡単には見つけられず、訪れる者をある種のスピリチュアルな冒険、自然の迷宮と穏やかな秘密の大地をめぐる静かな探求へ放り込む。観光客団体の流れは別として、作品のうちひとつだけが宮殿に置かているが、サックコートを着た上品な女性や乗馬している紳士に出くわしても驚かないであろう静かな路地で、一つの庭園訪問で数時間を埋めるには十分である。過去と現在、東洋と西洋、伝統美術と現代美術を調和させる良い方法だ。

リ・ウーファン:ヴェルサイユ
会期:2014年6月17日(火)〜11月2日(日)
時間:8:00〜20:30(パレスは9:00〜18:00)
休館日:月曜日
会場:Château de Versailles
住所:d’Armes, 78000 Versailles
TEL:+33 (0)1 3083 7800
https://www.chateauversailles.fr

Text: Valerie Douniaux
Translation: Yoshimi Irie
Photos: © Tadzio, Courtesy the artist, Kamel Mennour, Paris and Pace, New York

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