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草間彌生回顧展

HAPPENINGText: Aya Karpinska

執着、幻覚、自己肯定、消滅。これらは全て、草間彌生の作品と製作アプローチを説明するのに使われてきた言葉だ。ホイットニー美術館は、アーティストの60年に渡る半生と作品を振り返る回顧展の、ロンドンのテート・モダンに続く2つ目の巡回会場だ。マディソンアベニューにある、人目をひく淡褐色の美術館へ歩いていくと、水玉模様の大量のさくらんぼ色の風船がロビーの窓に掛かっているのが見える。

草間彌生回顧展
Kusama in Dots Obsession, Watari Museum of Contemporary Art, Tokyo, 2011. Collection Yayoi Kusama. Image courtesy Yayoi Kusma Studio Inc.; Ota Fine Arts, Tokyo; Victoria Miro Gallery, London; and Gagosian Gallery New York

典型的な回顧展と同様、本展も時系列に構成されている。初期の、紙に水彩とインク、パステルの作品が最初の展示室を埋めている。微生物や植物、種を連想させる絵だ。彼女の表現の一部はジョアン・ミロを思い起こさせるが、ミロよりは子供っぽくなく、むしろ獰猛さがあるといってよい。

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Yayoi Kusama, The Germ, 1952. Ink and pastel on paper, 247 × 180 mm. Collection of the artist. © Yayoi Kusama. Image courtesy Yayoi Kusama Studio Inc.; Ota Fine Arts, Tokyo; Victoria Miro Gallery, London

満開のダリアを抱えた、草間の10歳のときの写真がある。この展示では、写真、家への手紙、雑誌記事、スケッチブックなど、アーティストに関連した多くのドキュメントが用意されている。草間の生涯と、作品の表現のもととなった彼女の複雑な内面世界についてよりよい全体像を描く助けになるものだ。多くの写真や作品もやはり、彼女の自己執着したセルフ・ドキュメンテーションを反映している。今日に至るまで、草間は(彼女の言葉を借りれば、「オブリタレイト(消滅)」するため)作品に溶け込むような服を着て、作品の前で自身を撮影してきている。

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Yayoi Kusama, Heaven and Earth, 1991. 40 wooden boxes covered with muslin and 285 stuffed muslin forms, 406 × 305 × 305 mm. Private collection, courtesy Robert Miller Gallery, New York. © Yayoi Kusama. Image courtesy Yayoi Kusama Studio Inc.; Ota Fine Arts, Tokyo; Victoria Miro Gallery, London

紙やキャンパスに描かれた草間の作品を特徴づけている反復するモチーフは、彫刻やパフォーマンスにも登場する。箱や椅子、ソファーや靴からやわらかい触手のかたまりが飛び出し、スーツケースやマネキンやコートに、マカロニの形をしたものがくっつけられたりペイントされたりしている。1960年代後半のニューヨークでの「ハプニング」ではヌードモデルたちに水玉がペイントされた。後者は最もよく知られている作品のひとつだが、発表当時スキャンダルになったものだ。

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Yayoi Kusama, Fireflies on the Water, 2002. Mirror, plexiglass, 150 lights and water, 2819 × 3670 × 3670mm overall. The Whitney Museum of American Art, New York; purchase, with funds from the Postwar Committee and the Contemporary Painting and Sculpture Committee and partial gift of Betsy Wittenborn Miller 2003. © Yayoi Kusama. Photograph courtesy Robert Miller Gallery

おそらくこの展示のもっとも素晴らしい作品は、地上階のインスタレーション「水上の蛍」だろう。まるで、鏡張りの部屋にいるのではなく草間の頭の中にいて、小さな光が無限に繰り返されるのを止められないように思え、美しくもどこか不安にさせられる。

美術館の外にも、出会える(そして着れる)草間作品がある。ハドソンリバー・パーク・ピア45の水玉模様の彫刻、ミートパッキング地区のビルの装飾、マンハッタンのミッドタウンにあるルイ・ヴィトンのフラグシップストアのウィンドー・インスタレーション、ソーホーのポップアップ・ストア、そしてiPhoneアプリまで登場している。

草間彌生回顧展
会期:2012年7月17日〜9月30日
会場:The Whitney Museum of American Art
住所:945 Madison Avenue at 75th Street, New York, NY
http://whitney.org

Text: Aya Karpinska
Translation: Izumi Watanabe

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