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チームラボ「超未来芸術」展

HAPPENINGText: Kurando Furuya

なぜスマートフォンなのですか?

スマートフォンはカメラが目、マイクが耳、スピーカーが口、ディスプレーが顔と捉えると、表現できる人間みたいなものですよね。今回、この作品を作りながらグーグルのスマートフォンがなぜ「アンドロイド」(人工生命体)と名付けたのかに改めて気付いたりして。まさに人間に近い人工的な知能=アンドロイドだなと。

スマートフォンはワイヤレスでほぼ人間のようなコミュニケーションができ、外界を知覚できる。ディスプレーとスピーカーで表現もできる。お互いのネットワークのある人間みたいなものです。

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「秩序がなくともピースは成り立つ」チームラボ, 2012, インタラクティブ・アニメーション

今回の作品はどこかひとつのPCが制御しているわけではなく、本当に個々がコミュニケーションとっている状態ということですね?

Wi-Fiには同時接続数の限界があるので、すぐ近くの端末としか本当にコミュニケーションしません。なので近くの数台から順番に情報がさざ波のように伝達している状態です。インターネットも近くのサーバとかルータを経由していることと同じことです。インターネット社会は西洋よりもアジア的だと思っていて、インターネットの構造は、ほぼルールもない。中央がない。最低限のルールだけで、ある程度社会が成り立っている。それに近いかもしれない。

自主規制というものもありますよね。

あれは本当は解放されたインターネットというものに、中途半端な西洋の概念の入った状態。西洋の概念で「平和」っていうのは、法による秩序とか異物を駆逐することだったり、力による抑制だったりというのが西洋的。その点、昔のアジアは違っていたのではないか、という思いがあって、例えば、僕は地元が徳島なのですが、阿波踊りにいくと、そこには秩序はないし、曲をひとつをとっても指揮者もいなくて、誰かがリズムを叩くと、各々勝手に乗っかってくる。それで祭り全体が成り立つのです。

フリージャズとかに近いイメージでしょうか?

ジャズは良くわからないのですが、もっと自分本位な行為だと思います。ジャズは相手の呼吸に合わせて「そうきたかっ!」という音を被せると思うのですが、阿波踊りは人がどう思うと関係ない。みんなテンション上がっているし、僕もテンション上げようという、もっと抽象的で自分のためのものなのです。

阿波踊りには軸となるメロディとか、BPMとかそういうルールはあるのですか?

リズムは全体でなんとなくありますが、メロディに関しては完全にない。だから実際にあのお祭りを体験すると驚愕すると思います。全員が自分中心にコミュニケーションしていて「みんなテンション上がってきたから、オレもテンション上げようか」という状態。

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「秩序がなくともピースは成り立つ」チームラボ, 2012, インタラクティブ・アニメーション

今回の作品には阿波踊りでの体験が影響しているのですね。

僕が酔っぱらって、阿波踊り最中に『見てくださいよ、秩序がなくても平和は成り立つんです。西洋社会はミスを犯したんです』って、口走ったのですが、それを一緒にいた人が感銘を受けてくれて、その時は言ったこと事体も忘れてたのですが、とにかく阿波踊りは完全に秩序がない状態なのに、ピースな空間なのです。

阿波踊りはほとんどケンカが起きません。みんな酔っぱらって、踊り狂って、“ルールがないのにピースが成り立つ”。その状態に気付いたことが、この作品のベースです。あとで気付いたのですが、チームラボという会社もそういう分散型ネットワークの組織を理想にしているかもしれません。

たとえばどういう分散型ネットワークが行われているのですか?

今回の台湾での個展の場合、全体に完全に把握しているディレクターは誰一人いないという状態で実現したのです。それでも展示することが決まって、たった二ヶ月で20数点の作品を並べた展示を成立させました。携帯とインターネットのおかげでありえないスタイルのコミュニケーションで進行したのです。例えば、毎回美術館との窓口に色々な人が出てくる。誰も今回の展示を専任せずに進めて、美術館のスタッフも当初はだいぶ混乱していたのですが、そのうちチームラボの分散型ネットワークに適応してくれました(笑)。

良い話ですね。

普段、アニメーション作品を実現したければ、裏側に同期のとれたPCを複数台置いて映像を出力するとか、プログラムを走らせるとかの展示形式をとっていたのですが、スマートフォンは究極の一体型で単体でコミュニケーションと表現ができる。

今回の作品は中心にコンピューターがあるわけではなくて、スマートフォンひとつひとつが個別のコミュニケーションを取っている。独立したスマートフォン同士でコミュニケーションとっているので、誰かほかの小人につられて盛り上がる瞬間もあれば、全員がほとんど無音になる瞬間もある。携帯同士のコミュニケーション、センシングの感度で、本当にまるで人間社会っぽくなるってことがわかったのです。

阿波踊りの中で思ったネットワーク社会の新しい社会のありかたのヒントみたいなのを実現させた作品なのです。20世紀の西洋的なやり方ではなくて、もっと昔のやり方、西洋文化ではない社会に未来のヒントがあるのではないだろうかと、僕はいつも思っています。

「We are the Future(超未来芸術)」展
会期:2012年5月26日(土)~8月12日(日) 
開館時間:9:30~16:30(土・日曜日17:30まで)
休館日:月曜日
会場:国立台湾美術館 DigiArk
住所:台中市西區五權西路一段2號
入場無料
https://www.ntmofa.gov.tw

Text: Kurando Furuya

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