トラフ建築設計事務所
PEOPLEText: Noriko Yamakoshi
アート展示会などの展示会場構成を担当されることも多いようですが、「期間限定」という括りに魅力を感じられることはありますか?
面白いですよね。建築の場合は、長い期間残ることを前提としているので、最初はそんなちょっとの間でなくなってしまうなんてはかない、空しいという受け止め方の方が強かった。ただ「パパ・タラフマラ」や演劇ユニット「チェルフィッチュ」の舞台美術を担当をやらせていただいたことでその考えが変わりました。
パパ・タラフマラ 「パンク・ドンキホーテ」, 2009 Photo: DAICI ANO
実は建築だって例え「10年20年100年残るものを」と願って作ったものでも、なんらかの理由で取り壊されてしまった後は、「あれ、ここに何があったけ?」と人の記憶に全く残らないこともあるなと思ったのです。演劇やパフォーマンスでは、最初から期間限定である事が分っていながら、例えばたった一日だけの為に半年かけて稽古をやっている。色々難しい中でアルバイトをしながら夜遅く集まって、なんでそんなに頑張れるんだろうって最初は思いました。
チェルフィッチュ「フリータイム」, 2008 Photo: Toru Yokota
岡田さん(チェルフィッチュ主宰の岡田利規氏)の指示も僕らからすると何が違うのか全くわからない程細かくて(笑)、延々と同じシーンを繰り返しては役者さん達はその場で書き換えられる台本をまた覚え直していったり。
でも公演までの体験を通して「その一日だけでも記憶に残っていくもの」に向かうという、それまで自分の中には無かった概念に出会った気がします。
先日、関連したワークショップにも参加されていますね。
あれはとても良い体験でした。印象に残っているのは例えば手に持っているペンを地面において、それを拾い上げるのですが、それをゆっくりゆっくり、例えば5分かけてやって下さいと言われるのです。5分といわず時間をかければかけるほど良いといったような。
足を前にだして拾って足を戻す。それだけの事なのですが、本当にゆっくりなので、足もプルプルしてくるのです(笑)そのうちに自分がどうやって普段手を動かしてきたのかもわからなくなったり。始めは僕らのトークショウを終えてからのワークショップ、という予定だったのですが、まずは小池さん(「パパ・タラフマラ」主宰の小池博史氏)のワークショップを受けてからその感想を交えて話したかったので、順番を変えてもらっての体験でした。
どこか無にならないとできない体験で、「よく考えろ」とずっといわれてきたような自分にとって「考えるな」と言われたのは本当に新鮮でしたね。考えない、あるいは考えすぎずにただ感じるという“五感”をないがしろにしてきていたのかもしれないとも考えました。
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