スティーヴ・パクストン
PEOPLEText: Wakana Kawahito
“Material for the Spine” photo: Contredanse (Florence Corin and Baptiste Andrien)
ダンスにおいては、通常、筋肉について注目するのではないかと思いますが、なぜ、筋肉よりも骨格に関心を持っているのですか?
すでに多くの人が筋肉については考察しています。僕がずっとダンスをしてきた経験から言うと、いくつか背骨に注目したダンステクニックはありますが、背骨だけのものはない。どのようなパターンでフロアを動くか、ステップが正しいかに気をとられて、とてもじゃないけれども背骨を考えるまで頭が回らないのです。
よって、背骨についてじっくりと考える時間が必要だと考えています。一度学んで背骨を意識すれば、それを忘れることはないです。長期間にわたって背骨のこと学びたければ、ヨガや太極拳をやるとよいでしょう。でも、イントロダクションとして、「Material for the Spine(背骨のためのマテリアル)」のワークショップは有効だと思います。
子供のころからそのようなことを考えていたのですか?
全く考えていませんでした(笑)。あるとき、ダンスをやり始めて面白かったんです。色々とあって、結局ダンサーになりました。僕なりのダンスの考え方を「Material for the Spine」としてまとめたのが1986年です。
Photo © Jordi Bover
なぜ、ダンスを教えるということに興味を持ち始めたのですか?
それは、一般の人々がダンスを必要としているからです。ダンスは、体を意識する唯一の手段であり、柔軟な表現形態だと考えています。自分の可能性を広げることになる。ダンスというのは生きた表現形態です。
あるエピソードを紹介しましょう。台湾で早起きしたある朝、丘の上のお寺に行きました。するとそこでは人々が太極拳をやっていました。寺からすこし離れていたところに男女30人ほど集まっていて、彼らはサンバを踊っていました。男女のパートナーになって踊っていましたが重苦しい雰囲気はなく、朝のエクササイズとして爽やかに踊っていました。太極拳がそうであるように、これは一種のセラピーではないかと考えました。太極拳は一人でするものですが、社交ダンスは違います。人のぬくもりを感じて一日を始めるのは素晴らしいことだと思います。友達に会ってコミュニケーションし、いい気持ちで一日を始める。それがダンスというものではないでしょうか。ダンスは神経を覚醒させます。例えば、テレビでヒップホップダンサーが踊っているのを見ると、自分の中の神経が反応しているのを感じます。マーシャルアーツやダンスは体の可能性を多様に引き出してくれるのです。
では、あなたはダンスというのは楽しいものであるべきと考えていますか? ダンスとはどういうものですか?
いいえ。もちろん、時々楽しいものにすることはできます。ダンスにおいて、体の発達と言語は体の動きの中にあると考えています。身体能力を発達させていき、可能性を広げていくには、実際に動いてみないとわからないのです。
人間の骨格は22歳までに完成します。しかし、私のダンサーとしてのベストな時期は50代でした。22歳から約30年の時間が、自分の身体能力の発達のために必要だったのです。若い頃はもっとエネルギーに溢れていましたが、バランスや洗練というのは50代が最高潮でした。全部で2時間で構成された作品のいくつかのパートを演じ、そのうちの一つが45分間のソロパートがある作品だったこともありました。ほとんどの50代のダンサーはこんなことはしません。しかし、なぜ私ができたのか、それは身体能力の発達に他なりません。
何がもっともあなたに影響を与えていますか?
他のダンサーたちです。自分が出会った順に時系列に並べていくと、フレッド・アステア、最初に見たバレエのバレリーナ、カニングハム舞踊団、シモーヌ・フォルティ、リサ・ネルソンからは新しいダンスを発明する美しさを教えられました。
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