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松原 慈

PEOPLEText: Mariko Takei

現在、DIESEL DENIM GALLERY AOYAMAの1階ショップにて展示しているインスタレーション「BOOJUM」についてお聞かせください。

「BOOJUM」は、無意味にバランスを与える装置です。「Backwards」、「Broke」、「Blind」、「Blemish」、「Because」など、アルファベットの文字「B」で始まる単語を名前に持つ10台の機械がひとつの空間の中で呼吸しながら緊張感を保っています。具体的には、「Because」は永遠に揺れ続ける振り子、「Brooklyn」は植物に方向性を失わせ、「Backwards」は風船が大きく膨らんだりしぼんだりを繰り返し、「Biscuit」は人の動きに応じて流れる音楽に合わせて「Blind」の中に音符を放り、「Bridge」に刺激されて「Broke」の上で自動鉛筆が動き出したりします。
「BOOJUM」のアイディアは、頭の中で二つのことが重なって生まれました。ひとつは作品の構想を練り始めた頃に考えていた「事のバランス」について、もうひとつはルイス・キャロルの『The Hunting Of The Snark:スナーク狩り』という叙事詩への興味です。

キャロルの詩の中の登場人物の名前は全てアルファベットの文字「B」で始まる名詞なのですが、一方「バランス」はBで始まる英単語です。私の気になっていた単語「Balance」と、キャロルの詩に出てくる「Bで始まる英単語」には直接の関係はないですが、その二つは言ってみれば “無意味” という触媒をとおして、私の中でつながってしまいました。そのあとは、辞書を眺めて、Bで始まる単語全てに目を通し、もっともバランスの取れる10の単語をピックアップしました。その10の単語を使って短い詩のようなテキストを書きました。「Boojum is a mechanism that gives a Balance in nonsense…」という一文で始まる文章です。この文章を書いたときに、ほとんど半分くらい、作品は終わり、後はその書かれた文章を空間化していきました。初めから造形でイメージが浮かんでいた装置もあったので、慎重に10の機械を考えながら、空間の中で一定のバランスを与えていくよう心がけました。それがあまり意味をもちすぎないように、あるいは逆に無意味を捉えようとしすぎないように。空間として、浮遊している “無意味” を知覚できるようにしてみたいと考えていました。

松原慈 with assistant
BOOJUM, インスタレーション, Tokyo, 2008 Photo: Martin Holtkamp

影響を受けた人や、もの、場所など何かありますか?

沢山ありすぎて書ききれません。私はとても影響を受けやすいと思います。影響を受けたとしても、忘れてしまうこともあります。自分の心理状態にもよるのですが、歩いたり出かけたり、動くときに観察したものにもよく影響を受けます。
また、わりとしつこい性格なので、何かが気になるとつきつめて調べてしまいます。調べて行く過程で、背景やエピソードに重ねてインスパイアされることがよくあります。初めは自分のアンテナにひっかかったから調べていたはずなのに、調べ尽くしていく過程で、アンテナが曲がってゆくような感じです。
ほかには、ちょっと面白かったのは、寝ている間に見た夢に影響を受ける場合が幾度かあったことです。夢で見た内容をそのまま作品にしたことがあります。

今後のご予定をお聞かせ下さい。

作品の発表は来年になってしまうのですが、いくつか制作が始まったものがあります。私が手がけるものは、ひとつは東京で、もうひとつは北京になります。始まったばかりで詳細が発表できないのですが、どちらもテーマが政治的、社会的意味を含む、チャレンジングなプロジェクトなので、今年はこれから、どんどん集中して取り組むことになりそうです。
また、スタジオとしては、国内で住宅の設計も始まり楽しみにしています。

最後に、これからの目標をお聞かせください。やっていきたいことなどあれば教えてください。

新しい文脈を作るようなプロジェクトに、意識的にチャレンジしていきたいと考えています。21世紀的な感覚を大事にしたいです。21世紀には未来も過去も現在もその境目はないかもしれませんが。
前文でもお話した「mellow fever」という展覧会へ参加する機会がありましたが、これは大きな変化でした。それまでそうした括りは頭の中に存在していなかったのに、今のアジアについて空間で表現しなければならなくて、とても考えさせられたのです。そして秋にソウルの展覧会にも参加しましたが、こちらは、日本と韓国のアーティストにフォーカスした展覧会で、ここでもほかの作家、ギャラリーのディレクターや作品を取り巻く出会いから刺激を受けました。これまでは、目の前の自分のプロジェクトに必死なところがあったのですが、出会いがもたらすたしかな連鎖と運動を感じるようになったのが、最近の変化です。今年は、会いたい人に自分で会いに行ったり、さらに枠組みみたいなものを取り払ったり、自主的な動きを大切にしたいと思っています。

松原慈 with assistant「BOOJUM」
会期:2008年8月30日(土)〜2009年2月8日(日)
時間:11:00〜20:00(不定休)
会場:DIESEL DENIM GALLERY AOYAMA 1F
住所:東京都港区南青山6-3-3
TEL:03-6418-5323
キュレーター:高橋正明(ブライズヘッド)
https://www.diesel.co.jp/denimgallery

Text: Mariko Takei

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