三嶋章義
PEOPLEText: Shinji Nanzuka, Mariko Takei
ヒロ杉山率いるエンライトメントでは、アートディレクター兼映像ディレクターとしてその手腕を発揮しつつ、ソロ活動では、そこはかとない深淵な広がりを携えた独自の世界観を繰り広げるアーティスト、三嶋章義。ナンズカ・アンダーグラウンドでの初個展から2年経った今年、8月30日から開催の個展「Elements」では、新たなる三嶋ワールドを「DIESEL DENIM GALLERY AOYAMA」にて披露する。展覧会を目前に控えた三嶋氏からお話を伺った。
今回の個展は、2006年の「QUARTER」に続く、2度目の展覧会です。まずは、「Elements」とタイトルを付けた本展が、どのような内容になるのか、教えて頂けますでしょうか?
今回の「Elements」は、古代中国から伝わる五行思想からヒントを得ています。五行思想は、水、火、金、木、土という5つの元素(ELEMENT)によって、世界の成り立ちを説明します。具体的には、「水は火に勝ち、火は金に勝ち、金は木に勝ち、木は土に勝ち、土は水に勝つ」という五行相剋という考え方です。僕は、この五行思想の調和と破壊の相関関係を通して、アジア、オセアニア、ヨーロッパ、アメリカ、南アメリカ、中東、アフリカ、ロシアといった世界中の様々な文化圏の調和の可能性についても、同様に考える事ができるのではないかと思いました。つまり、地球規模な視点にたって、世界のバランスを考えた際に、それぞれの異なる「元素」を互いに補完し、抑制するという事こそが今必要なのではないか、という問題意識です。
そうした考えに至る前提として、僕は現在の日本社会に生きる僕自身の在り方を考えています。ナンズカ・アンダーグラウンドで開催した前回の個展において、僕は戦後第三世代を生きる日本人の一つの側面を表しました。それは、ヨーロッパも、アメリカも、アフリカも、アジアも全ての異なる文化を一様に差別無く捉え、また積極的に吸収しようとするフラットな感覚についてです。例えば、宗教の話ですが、戦後の日本人の多くは、キリスト教スタイルで結婚式を挙げ、和式で葬式をやるというように、無神教者です。以前に、マレーシアに行った際に、露店でコーランの教典が書いてある布を買ったことがあったのですが、その時に店主に「何で日本人がそんなの買うんだ!」って言われた事があるんです。僕自身には、宗教的な動機はまったくなかったので、ただ物質として欲しいと思っただけなのですが、そうした感覚は多くの国では通用しないんです。そう思った時に、無知ではいけないけど、逆に特定の考えやルールに固執せず、偏見や差別を持たない事はむしろプラスなのではないか、あるいはそうした感覚こそが、争いの無い平和な世界の構築に役立つのではないか、と実感したんです。
そうした考えも踏まえて、今回の「Elements」では、五行思想の5つの元素を擬人化した平面作品と、世界の未来像に対するイメージを具体化させた実験的なインスタレーションを行う予定です。
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