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松原 慈

PEOPLEText: Mariko Takei

プロジェクトごとにメンバー構成は変わりますか?また、作品制作や活動をされる過程では、どのように制作を進めていくのでしょう?

プロジェクトひとつひとつの性格は大きく異なります。その度にキャスティングは重要です。それはスタジオの内部に閉じた話ではなく、そのプロジェクトに関わる人物全てに言えることです。たとえば「ABSENT CITY」という、自身のスタジオを開放して開催された、都市についての展覧会には外部から、知人友人、写真家や音楽家、社会学者という人々が関わっています。彼らを巻き込んで作品はでき上がり、そのベースにスタジオがあるわけですが、実際には、そのプロジェクトのメンバー構成をスタジオとして整理することにはあまり意味がありません。

松原慈 with assistant
ABSENT CITY, 展覧会, Tokyo, 2008 Photo: Sebastian Mayer (AEIOU)

このプロジェクトの場合、私の頭の中で始まったストーリーに白いページが用意されていて、そこへ周りの人との会話が書き込まれる予定になっていたりしました。同様に、写真や音楽の要素が最初から想定されていますが、私やスタジオが何もかも作るわけではなく、場所を用意し何らかのコントロールを加えているにしても、ふたを閉じて整理してしまうことができないのです。スタジオというものを通して、自分自身や周りの人々の多様な創造活動や日常生活が絡み合っています。誰かのアイディア次第で、それはいかようにも変身してプロジェクトを実現させますが、アイディアがなければ何も起こりません。
制作はいつも、誰かのポジティブなエネルギーで始まり、それに反応した因子が周りを取り囲む形で進みます。

ホームページを拝見したのですが、様々な作品の中で「白いブリックのような箱」を共通して取り入れているのを発見しました。見ていて、「あ!この作品にもあの白い箱だ!」と、ワクワクしました。何か特別なアイディアや意図が込められているのでしょうか?

あの白い紙の煉瓦は、ロンドンから日本へ帰国して最初のプロジェクトであった、2005年の展覧会のために作りました。「Tremors were Forever」というその展覧会では、ギャラリー空間に空景を作りました。

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Tremors were Forever, 展覧会及びインスタレーション, Tokyo, 2005 Photo: Motohiro Sunouchi

東京に戻って最初に、スタジオを探しましたが、そのときに、東京では建物の屋上に出ることがあまり許可されていないことに気づきました。ロンドンに住んでいた時は、高い建物もなく、屋上に上がることはとても普通でした。その懐かしさもあって、室内に屋根の上に出て外を眺めたときの風景を作ったのです。全てを紙やフォトコピーのようなクオリティで作り、展覧会が終わったときにベリっと剥がして丸めて捨ててしまえるようなものにしたので、煉瓦も紙の箱になりました。帰国して初めてのプロジェクトだったこともあって、あの煉瓦の箱はとても思い入れのあるものです。

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ABSENT CAFE, インスタレーション, Tokyo, 2008 Photo: Martin Holtkamp

煉瓦はパワーアップして、最近では今年4月丸の内アートウィークスのために制作したインスタレーション「存在しないカフェ」に、銀の煉瓦となって登場しました。

活動の拠点のある東京以外にも世界各地で制作、活動されているようですが、お気に入りの都市や場所があれば教えてください。また、そこでどのようなクリエイションを行いたいですか?

お気に入りの都市はつねに変わります。たぶん自分の置かれている状況とそれに付随している身の回りの環境の変化次第で、くるくる変わっているのだと思います。いまは北京が好きです。自分がわからないことだらけなのが、とても新鮮に感じて刺激を受けるのです。数年暮らしたロンドンも好きです。ほかには、都市というより田舎ですが、南フランスのカシスという小さな港町は、避暑地の代表のような港町なのですが、坂と路地が多くて港や周りの山の風景が歩くたびに変化して楽しい場所です。また、スウェーデンのスモーランドという森林地帯の永遠に続く静かな森の風景は、何度訪れても好きです。イタリアのヴェニスは夜迷いそうになりながら歩いているときのおどろおどろしさが好きだし、スペインのバルセロナは2つの山に囲まれているのですが、車に10分乗れば、海にも山の上にもたどり着けるコンパクトさ、都会なのに自然がすぐ街の中にある地形が素晴らしいと思います。先日展覧会のために訪れたソウルも、想像以上に街のエネルギーがあって、とても好きになりました。
いま、もうひとつ興味をもっているのはナイジェリアのラゴスです。まだ訪れたことがないのですが、現在、ラゴスについての作品を作っています。また、都会の自然も好きなので、日本では、東京の森である御岳なども好きです。
新しい場所を訪れるのはいつも楽しみです。訪れた場所でそのまま制作に入らなければならないことも多く、最近観光旅行をすることがあまりありませんが、制作に入ってしまうと沢山の人といきなりコミュニケーションを取らなければならないので、濃密な滞在時間になります。それが疲れるのも事実ですが、考える間もなく、あっという間にその街や暮らす人のことが体に染み込んできます。実際には、自主的な旅と制作のための旅が半分半分くらいだと、私にはちょうど良いように思います。

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