レオ・オブストバウム
PEOPLEText: Yurie Hatano
バンクーバーの北海岸にその答えはありました。コンセプトを定義する言葉とイメージを模索していたのですが、その言葉は「変化」でした。天気は常に変わり続け、その劇的でエネルギーに満ちた変化は、景観、光、環境をも変化させていきます。カナダは常に変化の過程にある国なのです。様々な文化を組み合わせ融合することで、カナダ自体の文化も、そして自然も常に進化し続ける。全て一つ。水も至る所に流れている。バンクーバーは水と山に囲まれている都市で、まさにオリンピックに最適な環境なのです。
リサーチを終え、スタジオに戻ってからは、言葉とイメージというものに関して私たちが見てきたものをまとめるためにムードボードを作り、最終的なコンセプトができ上がるまで意見を共有し、議論を重ねました。その後は、「最近のトレンドや新しいスタイルを視野に入れつつ、その時その場所のストーリーを伝えるにはどうしたらいいか」、「どうしたら新しくてなおかつ西海岸とカナダに特有のスタイルが作れるか」ということに取り組みました。そこでブログを開設し、そこに毎日イメージやアイディアを投稿し、同時に壁を沢山のアイディアとコンセプトでいっぱいにし、ムードボードを作っていったのです。
視覚的なスタイルが決まったら、今度はデザインに入りました。なんとなくのイメージはあったのですが、それをどうやったら実現できるかははっきりとは分かりませんでした。あらゆるものを試してみた結果、「カナダにあるのは色々な『声』だ」という結論に至りました。より良いものを生み出すために組み合わされた独特なもの。その『融合』をテーマにデザインに取りかかりました。ウォールペインティングのように、自然、西洋、東洋などの要素と、まったく別の要素を組み合わせたりしました。そうして、最終的なグラフィックアイデンティティを構成するイラスト、テクスチャ、パターンを作っていったのです。
このグラフィックアイデンティティは、3つの層が基本となっています。一番下の層は、国の原動力、大きさ、若さ、新しさを表現するために、バンクーバーとウィスラーを象徴する色と形。
2つ目の層は、都市と自然の環境と、私たちの多くの文化に由来するイラスト。それら全てが一枚のキャンバスに生きている。それがカナダなのです。そのスタイルはオーガニックなもので、美しさや滑らかさを出すために手書きでデザインしました。
3つ目の層は、カナダ人の日常においては奇妙なイメージ。例えば、木になった電柱、トンボの羽がついた水上機、傘にくっついた消火栓など。これらの不思議なイラストは、カナダの新鮮なイメージを与え、私たちのもつユーモアや遊び心をくすぐります。シルエットだけが描かれたこれらのイラストは、現代的な印象を与えます。これら3つの層を無限に組み合わせたり、切り取ったりしました。
ピクトグラムのデザインに関しては、オリジナルなこと、これまでにはなかったようなことをしたいと思っていました。これまで、ランス・ウェイマン(68年メキシコオリンピック)、オチル・アイチャー(72年ミュンヘンオリンピック)、ブラッド・コープランド(2006年トリノオリンピック)などの巨匠が、素晴らしいピクトグラムをデザインしてきたので、この試みは非常に難しいものだと考えていました。
最終的に我々のデザインしたピクトグラムは、ポップカルチャーのイラスト、デザイン、写真、そしてボードスポーツ、マンガ、ファッション、音楽などを基本としたものになりました。アスリートたちの集中力や動きを感じることで、感動し生きていることを感じてほしい、子供たちには彼らを見て、自分もアスリートになりたいと思ってもらいたいです。
デザインチームと一緒にこの方向性を模索していきましたが、必ずしも我々の挑戦がうまくいった訳ではありません。我々がこれまで培ってきた方法でアイディアを実現するため、イラストレーター、Im-jac.comのアイリーン・ヤコブスに協力を求めました。彼女のスタイルは我々のコンセプトとマッチしていて、我々が望むものを完璧に理解してくれました。
最終的にできたのは、地図や標識、記号、出版物などに使われるスポーツピクトグラムと、その延長にある細かいイラストの2種類のスポーツイラストレーションです。細かいイラストの方は、ふんだんに色を使い、アスリートのイメージに、表情、感情、ダイナミクスを与えています。制作の最初の段階は、全て手書きのスケッチから。それをコンピュータに取り込み、手を加えていきます。時間はかかりましたが、仕上がりは完璧です。
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