フセイン・チャラヤン展「フロム・ファッション・アンド・バック」
HAPPENINGText: Sayaka Hirakawa
18年ぶりの大雪にも、寒波にも負けず、デザイン・ミュージアムは、耳と頬を赤く染めた人々でにぎわっている。寒さのせいだけではない。あらゆる要素をファッションへと美しくリンクさせ、実験的で独創的な作品を発表し続けるデザイナー、フセイン・チャラヤンの世界に、高まる胸を抑えられないのだ。
展示室でまず目にするのは、彼を一躍有名にした卒制コレクション「タンジェント・フロウズ」からの一枚。スリムなシルエットの赤褐色をした、シルクのドレスがガラスケースの中に納められている。そのシルク生地が、数ヶ月間地面の中で眠り、成長し、変化し、そして取り出され、ドレスへと形を変えたものであることは、あまりに有名であり、それでもなお衝撃的な事実である。この不可思議な作品を持ってセントラルセントマーチンズ大学を卒業したチャラヤンは、1994年より独自のコレクションを展開している。
グラビア撮影中のモデルのように、一斉に風を受ける三体のマネキンたち。2008年秋に発表された最も最近のコレクションである、「INARTIA」は「慣性」、「惰性」とも訳され、現代社会における「スピード」という観点が主題とされている。自動車の部品をモチーフにしたミニドレスは、まるでスピードを上げた車がクラッシュした瞬間のような、衝撃をまとった状態で固定されている。ボディの背中についた、いくつもの突起と、首元にちりばめられたフロントガラスの破片のような飾りに、思わず寒気とともに首をすくめてしまうかもしれない。情報や、消費のスピードが勢いを増す中、それにともなって、本質的な意義が失われていくことへのチャラヤンの警告と取るべきだろうか。
鮮やかな赤を基調としたトルコの民族衣装と、ウェスタンカルチャーを代表するいわゆる「洋服」とが交錯するのは、「Ambimorphous」というコレクション。フリンジ、ビーズ、金糸、ミラーがびっしりと縫い付けられた民族衣装と、シックな黒のロングコートとの対比は、そのまま異文化の対局性を思わせる。茜色の民族衣装がロングコートに覆われてゆく様は、西洋文化の影響力の強さを象徴しているようでもある。
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