マグダレーナ・ランティカ
PEOPLEText: Gisella Lifchitz
今年も「Arte BA」の時期が終わり、感想を述べたいところだが正直なところ特に思い当たらない。このコンテンポラリー・アート・ギャラリーフェアは、今日マーケットにあるアートのサンプルを集めただけのようだった。5日間の展覧会を経て、いつものことだが、聞こえてくるのは有名なアーティストや若いアーティスト達からの批判ばかりである。
ブエノスアイレスでは本物のアートはなかなか発掘されにくいのだろうか?全ては小さな場所で行なわれ、多くの人は足を運ばない。それは作品が高値だから購入できない、という理由だけではなく、知名度の低さも関係しているようだ。
Magdalena Rantica, Hace Cuanto Que Estoy Aqui, 126×156, 2007
幸いな事に、まだ作品を見て歩く場所は無くなってはいない。ヤング・ネイバーフッドというコーナーの中にルミナス・ガーデン・ギャラリーを見つけた。その小さなスポットを歩いていたら、ある絵画が私の目を捕らえたのだ。長い間私が目を付けていた若手アーティスト、 マグダレーナ・ランティカ。大きなスマイルを浮かべてこんなところにいるなんて!
どういった経緯で絵を始めたのですか?
学校で描きはじめたのがきっかけでしょうか。絵だけではなく、演劇や振り付け、バレエなど他の分野も大好きでした。いずれにせよ、自分の本当に好きな分野はファインアートだと気付いたんです。そしてある時メキシコに旅行に行き、その後の私に大きな影響を与えるとてもいい経験になりました。私の作品を通して再構築しようとしていた世界の全てが、この私の住んでいたメキシコ南部にあったんです。この街は市場と新鮮なトロピカルフルーツとカラフルな色彩に溢れ、花が咲き、蝶々が舞い、本当に素敵な場所だったんです。一年半そこで過ごした後ブエノスアイレスに戻り、テキスタイル、その宇宙の象徴である物と人間の構造の関係の研究をしていました。メキシコ南東部の文化について沢山研究をし、2001年に初の展覧会「Las Tejedoras」(The Weavers) を行ないました。
Magdalena Rantica, Las Tejedoras, 2001
その後はどのように活動してたのですか?
最初の展覧会の後、オーガニックの織物技術の概念に沿って活動を続け、また、ユートニー(*)・インストラクターとしてのコンセプトを基に作品づくりをしています。この頃は紙と木の欠片などを合わせて服を作っていたんです。これらの素材は有機的なテクスチャーがよく表れていて、物事を包み、そして同時に明らかにすることができると思うんです。そして2005年に奨学金を得てメキシコに戻り、物事がまた新たに形成されていくのを感じました。それから服と有機的な物をまた結合させていったんです。これらの全ては狭い世界でしか表現されていませんでしたが、後にこの壁を無くさなければいけないと感じていました。現在、構築は拡大し、扉は開かれ、また色彩が現れ、そして形状の境界線をも無くしています。
(*)心と身体の緊張感を取り除き、体をバランスのとれた状態に戻すエクササイズ。
何からインスピレーションを得ますか?
キッチュでかわいいものからインスパイアされますね。カラフルなテーブルや小さなお店、動物達や自然からも。これらの全てに影響を受けています。
Magdalena Rantica, Ikebana Balls
マグダレーナの作品はいろいろな物が混在している。純粋さ、カラフルな色彩、大自然の爆発、分裂的な要素も現れる。彼女の昨年の「Zavaleta Lab」での展覧会のタイトルは 「La eternidad más un miércoles」 (永遠と水曜日)。このタイトルは私のお気に入りで、なぜ彼女がこのようなタイトルを付けたのか知りたいと思っていた。そしてこの展覧会は、実は彼女の父親が亡くなった直後に取り組んだもので、彼女自身まだ喪中であると教えてくれた。自分の世界に没頭し、午後は全てアトリエで絵を描く事に費やし、永遠の時間の中の居住者となっていたという彼女。「時間と物質は消えてしまった。」とマグダレーナは言う。毎週水曜日に、彼女の展覧会のキュレーターがアトリエに来ていたそうだ。そして彼は新しい光をまた彼女にもたらすだろう、水曜日の光を。
分裂というキーワードがあなたの作品にあると思うのですが、どうですか?
そうなんです、私の作品の全ては分裂についてなんです。作品を見て、気に入ってくれたり感謝されたりすることは本当に不思議ですね。魔法のようです。
今年のArteBAはどうでしたか?
ArteBAは、コンテンポラリー・アートを本当の意味でプロモーションする場所ではなくなり、とても商業的なイベントになってしまったように感じました。知名度は上がってきて良いのですが、参加者がサイコロを振って決められているようなものです。最近の「ヤング・アート」の流れも反対ですね。何でもかんでも若くなければいけない、というのが新しい価値観になってきているのではないかと思います。
彼女のプロジェクト、新しい作品に対する情熱の話は止まらなかった。そして最後に彼女は床の巨大なペインティングを見せてくれ、その美しさに私は息を呑んだ。これからも彼女の作品を見ていきたいし、彼女の魂がこのマルチカラーの世界の中で、筆と共に羽ばたき続けることを祈る。
Text: Gisella Lifchitz
Translation: Junko Isogawa