フランシスコ・ロペス
PEOPLEText: Shintaro Miyazaki
フランシスコ・ロペスは国際的に有名な、エクスペリメンタルミュージックシーンの代表的な人物の一人である。ベルリンで最近行われた彼の実体験型ライブパフォーマンスは、この5年間私が見てきた中で最高に素晴らしいものだった。本当に実体験できたライブだ。ここで言う「実体験」というのは、その音楽の中に吸い込いこまれてしまうような状態のことだ。 ロペスは、シンセサイザーを使わず、自然や現実に存在する音だけを使って音楽を作っていく。しかし、その音景はとても人工的で、いままで聞いたことのない音の世界へ招待されるようだ。彼とのインタビューでより詳しい内容を理解していただけるだろう。
あなたの音楽はよく催眠的と呼ばれますが、それが目的なのですか?
私の音楽を聴いてくれる人たちには、それ以上のものであって欲しいと思っています。音と一体化し、個々の記憶や感情、想像の扉を一つずつ開いていくような経験や、私がコントロールや想像さえできない受け止め方をして欲しいと思っています。これが、私の考える個々が自由な体験をするための音楽 “空白の現象” です。私にとって、表現やコミュニケーションというものは 重要ではなく、音楽を作る側からみれば、それは見当違いであると思っています。音楽のエッセンスは、私たちではなく、音楽を聴いている人によって作られるものなのです。そのような目線から見れば、作曲家はある種の “媒体” (厳しい言葉で表せば)となり、技術者というかたちでより重要になってくると思うのです。彼/彼女の役割を減らしてしまうのではなく、その音を操作し肉付けするために、技術とケアを重んじるという考え方です。
いつもどのようなセッティングでパフォーマンスが行われるのですか?
観客の周りには、サウンドシステムに囲まれたマルチチャンネルがあります。会場は暗闇の中で、観客に目隠しをくばり、私自身は、丸く並べた椅子(またはマットレス)の中心にスピーカーの方を向いて演奏しています。
目隠しについて、なぜ、観客に目隠しをすることを求めるのですか?
私のパフォーマンスにおいて、視覚的な要素は目障りなものと感じるようになったのです。音が内へ浸透し、その価値を知り深い経験をする、視覚はそれを邪魔するものなのです。目隠しは単純ですが、とても効果があります。ライブパフォーマンス中に完全な暗闇を作り出すこともできます。また、このようなプレゼンテーションは、集合的にも深い経験をすることができます。ある種の、任意的な儀式のよう。
フランシスコ・ロペスをエクスペリメンタル・エレクトロニックミュージック界のブラームスと呼んでもよいでしょうか?
オーケストラミュージックのコンセプトやその始まり方など、ライブパフォーマンスが作り出すものには大変興味があります。それらの音楽が作り出す経験には、スケールや音色、音の感触のようながものがあり、 私はクラシックミュージックで演奏する楽器は使いませんが、その “具体音楽(ミュジーク・コンクレート)” を持っていると思います。ある意味、私のゴールは、観客の周りや、その内を通して、音でできている全世界の潜在性を引き起こすことなのです。
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