ムーブ #7展
ブライアン・チッペンデール。コネティカット東隣の小さな州、ロード・アイランドに拠点を置くブライアンは、自身がドラムを叩く2ピースバンド、ライトニング・ボルツのツアー中ということでオープニングには姿を見せなかった。だが、6月20日、幸いにもそのツアーがロスにやってきた。ダウンタウンのかなり勇気のいるロケーションにある「The Smell」。ゲリラ型パフォーマンスを繰り広げるオルタナ(?)ノイズバンド達(VAZ、ピンク&ブラウン、ライトニング・ボルトなど)が集結した。すでに前のバンドのパフォーマンスで会場の照明配線はやられていたため、大迫力の暗闇でのライブとなった。マイクが縛り付けられたマスクをかぶってわめき声のようなハウリング音を出している彼はボーカルでもある。ベースはこれまたブライアン(ギブソン)。押し合いへし合いの観客の中にどのようにしてかドラムを徐々に移動していくという、狭いスペースでのアメーバ的パフォーマンスはその夜の目玉だった。ライブ後になんとか話かけることができたが、爆音演奏の直後のため全く会話は噛み合わず。『明日はもうサンフランシスコでライブでしょ』『うん、何層にもわけてプリントするんだ。』どうやら彼の作品の説明をしているらしい。コミックブックやライトニング・ボルツのアルバムアートワーク(最新アルバム「Ride The Skies」のレコードジャケットはなんと一枚一枚手刷りだそう)を手掛けてもいる彼の作品は実に色鮮やかなシルクスクリーン。それも新聞紙にプリントされている。
翌日サンフランシスコに向かう前にギャラリーやってきたブライアンの聴力はもとに戻っているようだった。『7月中旬までツアーで全米を回ってロード・アイランドに帰ったらた立ち退きしなきゃならないんだ。』というその家は「フォート・サンダー」という10人のアーティスト/ミュージシャンが生息する古いウェアハウス(倉庫スペース)。『いろいろ理由はあるんだけど、決定打は消防署の勧告だね。』皮肉を込めてその様子が今回の展示作品の一枚になっている。帰ったらどこに行くの、と聞くと『ロード・アイランドにいるだろうね。今は大都市に住む気はあまりないんだ。ロード・アイランドにはアーティストも沢山いるし、生活コストがかからないからね。』場所を移してもクリエイティブ集団としてのフォート・サンダーは当分の間健在でありそうだ。
カレフ・ブラウン。唯一の地元からの参加、カレフの作品も実にいろんなところで見ることができる。アートセンターを出た後、そのままパサデナ(ロスよりやや北東)に拠点を置いて、イラストレーターとしてロサンゼルス・マガジン等を筆頭に活躍する傍ら、児童向けの絵本づくりに力を注いでいる。『イラストの仕事は仕事としてやってるけど、でもそのおかげで好きな時に旅に出たり、絵本づくりに時間をかけたりすることができるからね。』彼の作品は今のところ「Polka Bats and Octopus Slacks」と「Dutch Sneakers + Flea Keepers」の2点(共にホートン・ミフリン・カンパニーから出版)。リズミカルな詩と暖かい色の絵は、子供だけでなく大人の読者にも支持されている。絵本製作プロジェクトはたえず進行中というケーレフも過去の MOVE展貢献者だ。今回はなんともタイムリーにエミネムとエルトン・ジョンをモチーフにした作品もエントリーしていた。
エリカ・ボーボア。サンディエゴ出身のエリカは現在リッチと共にニューヨークに在住。リッチのガールフレンドでもある彼女の作品は何気ない鉛筆の一ストロークがとても味わい深い。モチーフとなっているのは動物が大半。アースカラーのパレットを使いこなし、ふぞろいな板で作り上げられたスペースは、とても暖かい空気をかもし出す。以前は鳥が多かったのが今回は海洋生物が増えている。もしかしたら1年弱のニューヨーク生活で西海岸が恋しくなったのでは?と思いきや『今回一週間こっち(西海岸)にいただけでニューヨークに帰りたくなった気がする』と言っていた。やはりニューヨークは人を惹き付ける街。誰もが20代の内に一度は住むべき、という云われが余計に説得力を持つ。リッチとコラボレーションすることも少なくない。今回のMOVE展でも一点リッチの壁に掲げられている。
今はなきギャラリーで産声をあげたこの MOVE展だが、今ではすっかりニュー・イメージ・アートに定着。すでにマーシアとリッチの間では、#8の構想が進んでいるという。『リッチとの出会いは運命的だったわね』と第一回のオープニング・パーティをマーシャは振り返る。『リッチは自身も素晴らしいアーティストでありながら、人を繋ぐ力や才能発掘、特にアウトレット(発表の場)とチャンスを与えることによって若い才能を育成してる。そのカリスマ性と献身の絶妙のブレンドにうたれたのね。』と彼女は言う。リッチと彼の率いるMOVE ファミリーとの出会いによってギャラリーのスタンスも明確になった。
『頭の中で完結するアートももちろん素晴らしいけど、ここでは、オーディエンスに身体的/視覚的に訴える作品、アーティストを集めているの。』確かに自分を取り巻くリアリティにそれぞれの解釈が与えられた時のメッセージ性の強さにかなうものはない。ここニュー・イメージ・アートでは、まだアート界では若くて純粋に自分の好きなことを追求しているというアーティストの卵達も多く見せている。中にはまだまだ技術的に荒削りな作品もないわけではないが、それぞれが生きているリアリティだけは強く反映されている。そんな作品が時にはどんな名将の絵画より価値があるかを、このギャラリーに幾度となく足を運び続けるコレクター達は知っている。そして「今、ここ」の空間と時間に展示された作品自体は言わずもがな、その背後に微妙に示唆されたアーティスト同士の関係図が放ついたって人間臭い空気が、ニュー・イメージ・アートの何よりの魅力だと思っている。
グループ展の醍醐味をここに見るなり。
MOVE #7
会期:2001年6月9日(土)〜8月11日(土)
会場:New Image Art Gallery
住所:7906 Santa Monica Blvd. #208 Los Angeles, CA 90046
TEL:1 323 654 2192
https://www.newimageartgallery.com
Text: Aya Muto
Photos: Alex J. Brown