ムーブ #7展

HAPPENINGText: Aya Muto

会場となったニュー・イメージ・アート・ギャラリーは、昔の教室を改築したようなこじんまりとした、ノスタルジアさえ漂いかねないスペース。といってもここに集うアーティスト達の中には各方面で名を馳せる大物も少なくはない。

リッチ・ジェイコブスはもちろん、エド・テンプルトンシェリル・ダンクリス・ヨハンソンダレククリス・ヨーミックなどは、ほんの氷山の一角。もともとの拠点となった6畳弱のメインルームと5月にオープンしたばかりの15畳くらいの大部屋の2つからなっている。後者は窓から入る自然光が実に気持ちいい。2つのスペースへのアーティスト振り分け、そして壁の分配に至るまできちんとストーリー性を持たせるべく、リッチとマーシャは熱く意見を交わしていた。『実際にはスペースを区切っての展示だけど、空気・雰囲気が繋がることは絶対なんだ』と自分の展示もそっちのけに、リッチはギャラリーを歩き回っている。首をかしげたり、アーティストとちょっと話したり、うなずいたり忙しそうだ。

そんなセッティングの数日間が続き、道の向いにあるホール・フーズ(健康趣向のスーパー)への散歩が息抜きの口実として定着した頃、『今回のMOVE展は今までの中でも一番といってもいいくらいのお気に入り。』とリッチが嬉しそうに笑みをこぼした。過去のMOVE展のフライヤーを見て、その場に居なかった自分を呪っていただけにこれは本当に至福の一言だった。

以下に主なアーティストの紹介をしたい。

トーマス・キャンベル。映像作家、ぺインター、フォトグラファ−、レコードレーベルオーナー、ロングボーダー…とここにも上げきれないくらいの顔を持つトーマス。今回はそのなかの2つの看板を引っさげてやってきた。いくつもいくつも作品がでてくると思ったら駐車場には彼の愛車の白いバンが。「It’s really great!」と本人も豪語するように、ここには、トーマスワールドがつまっている。サーフボード、スケートボード、ペイント、キャンバス、CD、ビデオ、カメラ機材一式、フレーミングされた写真の数々、生活用具に至るまで。現在の拠点のサンタ・クルーズからこのバンで駆け付けた。ボサノバ調のBGMをバックに多くのセレクションの中から展示作品を吟味していたが、最終的にはサイズもまちまちなペインティングが9点(小さなキャンバス9〜10点で一作品というのが2点)、写真を3点というところでセッティング終了。彼の明るいカラーパレットはやはり海と太陽を思い起こさせる。

エヴァン・ヒーコックス。サンフランシスコをベースにグラフィックデザイナー、イラストレーターとして活躍するエバンは、その細部にわたる緻密な作品で知られている。チョコレート(スケートボード)のグラフィックで彼のスタイルとはお馴染みの人もいるかもしれない。今回の展示作品からも分かるように彼は、ストリートをインスピレーションの場として追求している。自身でストリートに「実践」することはまずないというエヴァンは、非常に忠実に再現したグラフィティ、寂れた廃車工場などをモチーフにあくまでもアートという土俵の中で、そのメッセージ性の強さを示唆している。

シモーン・シューバック。普段は花屋で働くというシモーン。それも納得のオーガニックなプレゼンテーションが繰り広げられた。ミートスライサーでスライスされた赤と黄色の乾燥トマトのランジェリー、オープニングの夜まで冷蔵庫に保存されていたプロシュート(イタリアハム)のパンツ、几帳面に縫い付けられた乾燥エビの靴下・バッグなど。ふとすると見のがしてしまいそうな細かいところにこだわりが感じられる。『このエビが縫い付けてあるバッグは実際持ち歩くこともあるんだけど、臭うって友達に不評なの。』繊細すぎてとても機能的にはとても見えない作品達だが彼女の生活にはなんのことなく登場するらしい。『それに「SS」は 私のイニシャルだからきちんと意味があるのよ』とシモーン。現在はニューヨークに拠点を置く彼女だが、学校時代を過ごしたサンフランシスコのアートシーンにも活発に参加している。

ジョーディン・イシップ。ニューヨークに住んでいる人なら必ずと言っていいほど、ジョーディンの作品に遭遇したことがあるに違いない。ニューヨークタイムズを初めとし、ハイクラスなエディトリアル界の寵児である彼は、ここで3スタイルを展示。コラージュのような、ペインティングのような、ミクスト・メディアの名に相応しい4点と、ハガキに施されたラインアート16点、そして床にごろっと転がる顔3点で完成。何層も何層もペイントや紙を重ねていく手法のジョーディンの作品は、一枚の紙がかなりの厚さと重さになっている。『裏を見てごらん、補強しあるのが分かるから(笑)』と手の内を公開するのも何のことない様子。去年のハロウィンにはこの顔をマスクとしてかぶれるようにわざわざ製作し、かぶって町中を数人で歩き回ったと言う。ジョーディンの奥さんであるメリンダ・ベックも過去の MOVE展に参加したことがあり、グラフィックデザインがバックグラウンドの彼女とのコラボレーションも多方面で行われているようだ。

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