トーサキ・ヒサヨシ
今月のカバーデザインを制作してくれたのは、ウェブプロダクション、イメージソースでクライアントワークの傍ら、数多くの実験的なインタラクティブプログラミングを手掛けるインタラクション・デザイナー、トーサキ・ヒサヨシ。自身のサイト「TOKYOACE4」でも実験的なプロジェクトを多数発表している、若干23歳の気鋭クリエイターだ。
まずはじめに、自己紹介をお願いします。
トーサキ・ヒサヨシ、23歳。東京のウェブプロダクション、イメージソースで働いています。慶応大学のSFCで、コンピューターサイエンスを勉強し、大学3年の時からこの業界で働いています。
イメージソースという会社について教えていただけますか?
イメージソースは、1998年の夏に元キノトロープのプロデューサー伊藤幸治を中心に設立されたウェブプロダクションです。当初私が4人目のスタッフでしたが、現在では15人の個性的なスタッフで構成されています。
今のところ、ウェブサイトの構築が売上のほとんどであり、ソニーやNTT東日本、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッターといった大規模な会社のコーポレートサイトや、BMWジャパンの東京モーターショー、フジ・フィルムがサポートする「EARTH FROM ABOVE」というアートプロジェクトのウェブサイトも制作しています。
私は、主にJAVA/DHTML/LINGO等でインタラクティブなプログラミングをしていますが、グラフィックデザインや、プロジェクトのクリエイティブディレクションを行うこともあります。また、経営者の一人でもあります。
TOKYOACE4ではどのようなことをしていますか?
TOKYOACE4は、私のプライベートなプロジェクトへのインデックスになっています。ウェブサイトにおける情報へのナビゲーション・ビジターとの関わり方の実験的な試みとしてスタートしました。現在はただリンクを並べていますが(僕はこれをウェブにおけるニュートラルなデザインだと言い張っているのですが)、近いうちに新しいインターフェイスを作ることになると思います。
TOKYOACE4という名前の由来は、ただの冗談なのですが、これは野球の話です。今の子供達は違うのかもしれないのですが、やっぱりエースピッチャーで4番打者というのはやっぱりかっこいいじゃないですか、ただそれだけなんです。
今回のSHIFTのカバーについて説明いただけますか?
これは、私が制作したスクリーンセーバー「REWOB」で制作したエンジンを利用しています。このスクリーンセーバーは、起動するとウェブサイトのリンクを辿り、HTMLタグを分析して画像ファイルを収集し、それをリミックスしてモーショングラフィックスを生成するプログラムです。実行してみると、そのサイトを象徴するようなグラフィックスが生成されます。
SHIFTのカバーのために制作したショックウェーブバージョンでは、SHIFTのサイト内をクロールし画像を収集しています。
特定のページ内の画像を使用して、ページを壊れたようにみせるウェブページは他にもいくつかありますが、「REWOB」はそれらとは(おそらく)違うコンセプトで制作されています。ウェブは広大なデータベースであるわけですが、普通のユーザーは、インターネットエクスプローラーや、ネットスケープのような、所謂ウェブブラウザを使用しないとアクセスすることができませんね。これは少しおかしなことだと思いませんか? データはもっと自由に利用されるべきだと思いますし、人それぞれが、好きなアクセスの仕方で自由にアクセスすればよいのです。「REWOB」は、私にとってウェブへのアクセス方法の一つなのです。
「REWOB」は、まだベータ版なのですが、正規版では、自分が見ている画像を同時に「REWOB」を見ている他の人にも送れるようなコミュニケーションシステムとする予定で開発を進めています。
今までに、カーソルモニターや i Respect など実験的なインタラクティブ作品も発表していますが、制作において心がけていることは何ですか?
カーソルモニターは、プライベートなコンセプトとコマーシャルなコンセプトが同居した作品です。これはDHTMLとJAVAアプレットを用い、専用のサーバーを必要としますが、特定のウェブページにアクセスしたビジターのマウスの動きをトレースし、同時にアクセスしている他の人たちに知らせることができるシステムです。
プライベートなコンセプトと言ったのは、チャットや伊藤幸治の ネット・レゾネーター、他の比較的なダイレクトなコミュニケーションツールではなく、ただ存在感だけを知らせるようなコミュニケーション、例えば「上の階で歩いている人の足音が聞こえる。」をウェブ上で表現したかったという点です。
コマーシャルなコンセプトは(こちらの方が大きく評価されていますが)、ユーザビリティの検証ツールとして機能させることができるという点です。インターネットを通じて実際のエンドユーザーのマウスの操作を取得することができるので、ウェブサイトのデザインの検証に非常に有効です。
iリスペクト では私はJAVAアプレットの制作を行いました。多くのクリエイターの「リスペクト」の関係を表現していこうというプロジェクトだったのですが、残念ですが一年近く停止しています。
シナプス・プロジェクトは、2年前の作品ですが、ネットを通じて複数の人間がリアルタイムに連想ゲームができるシステムを設計しました。自分を自分たらしめているのは何だろうというものを考えていった時に、ある言葉から連想する別の言葉の間には「自分」というものが大きく関係すると考えました。例えば「マック」という言葉を聞いた時に、「マッキントッシュ」を連想するか「マクドナルド」を連想するか「巨人にいた助っ人外人」を連想するかは人によって違うということです。例えば男性と女性が別のフィールドで連想ゲームをしていった結果の差異を抽出したものは性別による違いをあらわすのではないでしょうか?また、医者と弁護士が連想ゲームをしていった結果の差はその職業による思考の違いをあらわすのではないでしょうか?そういったものをどんどん自分の連想ゲームと比較していくと相対的に自分を自分たらしめているものが見えてくるのではないか?そういうコンセプトで作られたサイトです。サイトを大学に置いてきてしまったので、肝心のシステムが動作していないのですが、近い将来にリメイクしたいと考えているプロジェクトです。
これらはインタラクティブ作品ではありますが、ユーザーとコンピューターがインタラクティブということではなく、参加者と参加者、あるいは、参加者と私がインタラクティブな関係で結ばれているという意味でインタラクティブ作品であるといえると思います。意識しているわけではありませんが、それが私の作品の多くに共通する姿勢ではないかと思います。
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