「ビットストリームス」展
HAPPENINGText: Rei Inamoto
『かつて写真が絵画に取って変わり「現実」を表現することでアートに革命をもたらした一方で、デジタルテクノロジーが「非現実」のニュアンスをつかみ取る究極のツールへとなりつつある』この「ビットストリームス」展のパンフレットの一文が、僕に強い衝撃を与えた。
Installation view of BitStreams. Photo: Jerry L. Thompson Courtesy of the Whitney Museum of American Art
この声明文は明らかなことであり、また、非常に正確なものでもある。歴史を遡ってみても、今日ほどテクノロジーが私達の社会の構造に浸透している時代はない。世界中の多くのアーティストにとってそれは、彼等の表現や探究のために選択するツールとなっている。19世紀後半の写真の出現は、「現実」を捉え、それを再現する方法を根底から変えてしまった。その1世紀以上後に、別種のテクノロジーにより、「現実」を超え、新しい現実を作り出す様々な方法が証明されている。
現代風に相応しく名付けられた「ビットストリームス」。このホイットニー美術館で開催された展覧会は、静止画、動画、音など、様々なデジタルアートのかたちの概観となっていて、展覧会には50ものアーティストが参加している。
展覧会の焦点がデジタルテクノロジーにあるにもかかわらず、展示された素晴らしい作品の多くは観客にデジタルテクノロジーの関わりを感じさせないようなものとなっていた。そのひとつに、ロバート・ラッザリーニによる「頭蓋骨」という作品がある。
“Skull”, Robert Lazzarini, 2000, Resin, bone, pigment, 10 x 9 x 6 inches © Robert Lazzarini
4つの頭蓋骨が置かれている部屋がある。部屋の四方の壁にひとつづつ頭蓋骨が並べられ、部屋に入ると、光と色の極度な白さによって原始的で客観的な感覚に襲われる。と同時に、部屋全体が歪んでいるような感覚を覚え、観客は方向感覚を失い始める。頭蓋骨をよく見てみると、その方向感覚の喪失が頭蓋骨の歪みによって引き起こされたものだということが分かるのだ。
Installation view of BitStreams © Robert Lazzarini
説明によると、『アーティストは、まず実際の人間の頭蓋骨をレーザーでスキャンし、3次元のCADファイルを制作。そしてその頭蓋骨のデジタルモデルにいくつか異なる歪みを与え、その結果としてCADファイルが3次元の物体として「プリントアウト」され、最終作品のモデルとして使われた』とある。
作品の制作過程でデジタルテクノロジーを使用してはいるが、最終結果を見てもそのような痕跡は見受けられない。「非現実」、歪められた現実性だけが、そこに残存しているのだ。
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