奈良美智作品集

THINGSText: Hiraru Nakasuji

奈良美智の作品集「Yoshitomo Nara」がイギリスの出版社ファイドンから発売された。本書は彼のキャリア全体を回顧的に俯瞰できるものとなっている。美術史家のイェワン・クーンによる解説と、奈良美智本人の言葉で綴られる数々の思いは必読だ。


作品集「Yoshitomo Nara」表紙

まず奈良美智といえば思い浮かぶのは丸いフォルムの女の子のドローイングではないだろうか?このシグネチャー作品が生まれるまでには紆余曲折があり、本書ではその一連の流れを網羅的に知ることができる。今まで大きく取り上げられることのなかった出生から幼少期、学生時代と余すことなく説明してくれる貴重なレファレンスとなることであろう。彼の軌跡から、世界のアートシーンの移り変わりにも注目したい。


“Untitled”, 1988, Acrylic, colored pencil, and pencil on paper, 295 × 210mm
“Untitled”, 1988, Colored pencil and pen on paper, overall, 370 × 275 mm

青森の弘前市で生まれ育った幼少期から本書は幕開けする。そこからアートに目覚め、武蔵野美術大学へ進学する様を追っていく。また、音楽は奈良が創造する際のインスピレーションの源として無視できない存在である。時にCDのアートワークを手がけたり、歌詞を題材に製作したり、様々な形で関わり合ってきた。


“The Girl with the Knife in Her Hand”, 1991, Acrylic on canvas, 1,505 × 140 mm

第二章では女の子たちにフィーチャーする。この絵柄の発端となったとされる「The Girl with The Knife in Her Hands」には愛らしさと風刺的な不気味さが同居している。これはドイツのデュッセルドルフで行った学生展で製作されたものだ。このアイコニックな作品は日本から遠く離れた土地で生まれたというのだから数奇な巡り合わせである。まだ日本の現代アーティストがヨーロッパで名声を得ていなかった頃の話だ。

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