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「永遠の門 ゴッホの見た未来」

THINGSText: Hiraru Nakasuji

明るい色彩と大胆に筆致を残す描画法で世界中から愛される、19世紀を代表する画家、フィンセント・ファン・ゴッホ。代表作品を知りつつも、10年間の画業の中で彼の身に起きた出会いと交流にフォーカスする機会はあまりなかったのではないだろうか。
そんなゴッホの生涯に迫る映画が昨年秋に公開された「永遠の門 ゴッホの見た未来」だ。自身も画家であるジュリアン・シュナーベル監督の手腕が冴える作品に仕上がっている。

ゴッホ役を演じたウィレム・デフォーは2018年のベネチア国際映画祭コンペティション部門で主演男優賞を受賞しており、実力派が名を重ねる期待作である。また、映画の題名にも使われている「永遠の門」とはゴッホが初期に描いたリトグラフ作品からとってつけられている。ゴッホファンを唸らせる仕掛けが随所に散りばめられているのもポイントだ。

短い画業の中で試行錯誤を繰り返しながら確立されてきた独自のスタイルの背景には、弟のテオ、画家仲間のゴーギャン、一度は志した聖職者たち、晩年に診療を続けてくれたガシェ医師、などとの交流があった。孤独な画家と評されがちのゴッホだが、影響を与えてくれた人物は確かにいたのだ。

パリからアルルに移り住み、南仏の強い日差しと植物を全身で感じたことがそのまま作品にも反映されていったのが実に情緒豊かに瑞々しく映像化されている。アルルはパリで取り入れたポスト印象派の色彩を試すにはうってつけの場所であった。また、ここでの制作はまるで情熱がそのままカンヴァスにあふれ出たかのようだった。彼の画業で最も鮮やかでかつ鮮烈な色使い、たっぷりと塗り重ねられた絵具、急かされるようなストローク。光の満ちた南仏の風景に制作意欲を強くかきたてられていたのが手に取れる。映画の中では、ハンドカメラを多用することでゴッホの瞳がとらえた風景を優雅に映し出している。

アルルでの順風満帆とも思えた創作活動は、ゴーギャンとの共同生活が終わりを告げるとともに一変した。友人が去ってしまったことと精神病の発作が発症したことが重なり、精神のバランスを崩してしまう様が見事に表現されているのは、映像技術にも役者の演技にも目を見張るシーンである。また、その頃から自分の進む道を再模索するように、昔のような模写を行ったり、筆遣いにも変化が出てきたのが如実に伺える。

晩年を過ごしたサン=レミの療養所で、一人の聖職者に語りかけるシーンでは、実際には明らかにされなかったゴッホの気持ちが非常にリアルに吐露されている。絶望の淵にあった彼に残されていたのは、絵を描くというひたすらに純粋な情熱だったのだろう。

アートと直接触れる機会が減っているこんなご時世だからこそ、家で映画を通じてアートをじっくり堪能するのもいい。新しい発見や解釈が見つかるかもしれない。

「永遠の門 ゴッホの見た未来」(原題:At Eternity’s Gate)
制作国:イギリス、フランス、アメリカ(2018)
上映時間:111分
監督・共同脚本:ジュリアン・シュナーベル
出演:ウィレム・デフォー 他
配給:ギャガ、松竹
2020年6月3日 DVDリリース/レンタル同時スタート
https://gaga.ne.jp/gogh/

Text: Hiraru Nakasuji
Photos: © Walk Home Productions LLC 2018

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