「NOBODY LOVES YOU(ノーバディは君に首ったけ)」
THINGSText: Hiraru Nakasuji
目黒にある金柑画廊主宰のキンカンパブリッシングから、一風変わった小説が今夏出版された。タイトルは『Nobody Loves You(ノーバディは君に首ったけ)』。著者のサマタマサトがAbode Illustratorで執筆・デザインをしたアートと文学が融合した作品である。
元々はページのノンブルだけの作品だったところ、本文も制作するに至ったという。そのこともあってか、ノンブル部分も非常に凝っていて、物語を読んでいる最中もついつい気になってしまう。著名人の名言、曲のBPM、曲の秒数、住所の番地、ロゴ、数字の入っているものなら何でも使われている。ただページ数を示す記号的役割だけではないところが一筋縄でいかない。
本文も通常の小説のようにただ文字が羅列されているのではない。本文のフォントもまちまちであり、なんといっても単語の所々が著名なロゴを使用して表現されているのだ。例えば著名人の名前が出される場面では各人のサインが使用されている。「将来」という単語にはバック・トゥー・ザ・フューチャーのタイトルロゴ、「最後」にはファイナルファンタジーのゲームロゴ。ある程度カルチャーに触れている人であればどれも見覚えのあるマークばかり。ただ文字をなぞって物語を追うだけではない楽しみがあるのは本書の最大の特徴だ。
物語は、語り部のぼくがガールフレンドと思しき人物と某人の葬式へ参列しに行く場面から始まる。最初は独特の文体や組版に慣れず、1ページ1ページを読むのが難しいと感じるかもしれないが、美術館で作品を眺めるように、あまり構えず読み進めてみてほしい。
物語を紡ぐという行為はもっと自由になれる。
『Nobody Loves You(ノーバディは君に首ったけ)』
文・デザイン:サマタマサト
判型:A5変形、UV印刷、白黒、300ページ、日本語
発行:Kinkan Publishing
発行日:2020年初夏
https://nobodylovesyou.net
Text: Hiraru Nakasuji
Photos: © Masato Samata