武田鉄平 作品集「絵画のための絵画」
THINGSText: Hikaru Nakasuji
孤高のアーティスト武田鉄平の初作品集「絵画のための絵画/PAINTINGS OF PAINTING」がユナイテッドヴァガボンズから発売された。山形で人知れず制作していた年月の集大成が満を持して世に出る。本書の発売に伴い、都内で展示が開催されているため、ぜひ足を運んで実物を堪能してほしい。また、書籍と実物の両方を見る機会があるからこそ、この記事では作品の情報を最小限に留めておく。
武田鉄平《絵画のための絵画 003》2014年、紙にアクリル絵具、木製ボード、910x727mm、個人蔵 © Teppei Takeda / MAHO KUBOTA GALLERY
まず書籍を見て、その後展示を見るべく神宮前の MAHO KUBOTA GALLERY へ向かった。そこで目にしたのは単なる肖像画ではなく、人の形をした別の何かであった。全く新しい概念だ。生き物は受け取った外的刺激に意味付けを行うが、それが何なのか解釈し再構成する処理が追いつかない。そんな感覚だった。つい近づいたり、離れたり、角度をつけたり、何度も覗き込み確かめようとしてしまう。
武田鉄平《絵画のための絵画 018》2019年、キャンバスにアクリル絵具、油絵具、910x727mm © Teppei Takeda / MAHO KUBOTA GALLERY
紙面で見るとまるで眼鏡をかけていない状態で物を見るようだが、ギャラリーで見るとその真髄がみるみるクリアになってくる。とはいえ、紙面を見て抱いた感情も嘘ではなく、その時点の自分にとっては一種の真実なのである。自分が見ているものが、自分が感じていることが、最も正しくて最も重要である。武田氏の作品はそんな感覚を呼び起こし楽しませてくれる。むしろアートと対峙するときはインスピレーションこそを大切にすべきではないだろうか。
制作過程
また、本作品群のタイトルにも触れておきたい。武田氏はまず下絵を描き、それを再度別の絵に起こしたものを最終的な作品としている。「絵画のための絵画」とは、下絵の再解釈であり代替であると感じた。きっとどの制作段階においても、その時々の状態が“絵画”にとっての真実なのだ。
制作過程
立体的に勢いよく描いたように見せかけて、極めて繊細で緻密な設計に基づいて線一本一本が引かれている。作者の意図と寸分違わない高い実現性ゆえに成し遂げられることである。鑑賞者である我々はいとも容易く錯覚させられてしまう。人間の知覚はなんて不確定なのだろう。しかし時折はそんな知覚と戯れ、十人十色に思考を巡らせるのもいい。
武田鉄平 個展「Painting of Painting」
会期:2019年9月3日(火)〜10月12日(土)
時間:12:00〜19:00(日・月曜日および祝日休廊)
会場:MAHO KUBOTA GALLERY
住所:東京都渋谷区神宮前2-4-7
TEL:03-6434-7716
入場無料
https://www.mahokubota.com
武田鉄平 作品集「絵画のための絵画/PAINTINGS OF PAINTING」
仕様:259×303mm、80ページ、ハードカバー、空押し、折りポスター(910×727mm)
発売日:2019年9月16日
定価:5,000円(税別)
アートディレクション:ファビアン・バロン
編集:菅付雅信、ジョイス・ラム
発行:ユナイテッドヴァガボンズ
ISBN:978-4-908600-05-0
https://www.unitedvagabonds.com
Text: Hikaru Nakasuji
Photos: Courtesy of the artist, © Teppei Takeda