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ミュンスター彫刻プロジェクト 2017

HAPPENINGText: Ray Washio

2017年は10年に一度のアートイヤーと言われる。2年に一度のヴェネツィア・ビエンナーレ、カッセルとアテネの2都市での開催が話題となったドクメンタ、そして1977年の開始以来、10年に一度という長期スパンを貫いているミュンスター彫刻プロジェクトの開催年であるためだ。

近年の日本における国内の芸術祭の盛り上がりを考えると、10年ごとにやってくるこのビッグイヤーへの注目には特別なものがある。「地域アート」という言葉が生まれ、アートとコミュニティの関係性が問われる中、半世紀近く前から先駆的に活動してきたミュンスター彫刻プロジェクトについて知ることは、日本国内のアートについて考える際にも大きな手がかりとなるはずである。

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Jorge Pardo “Pier”

ミュンスター彫刻プロジェクトを構成する作品群は、大きく二つに分けることができる。今年初めて発表される2017年のプロジェクトと、開始以来これまで市が買い入れてきたパブリックコレクションだ。

パブリックコレクションの中には、ドナルド・ジャッドブルース・ナウマンリチャード・セラなどの著名な作家の作品も含まれる。野外彫刻であるこれらの作品は、特に目立ったキャプションもないため、街に溶け込むように、つまりそれが作品だと気づかぬことも多い。それは作品や彫刻ということへの我々の認識に疑問を投げかけてくるようであった。年月の経過による錆びや、あとゴミや落書きなどの人為的な理由による作品の変容。作られた当時の様子が想像できないほどグラフィティが施されている作品も見ることができる。しかし、これが半世紀近い時の経過にも埋もれない作品の強度として立ち上がってくることもある。

いずれにしてもそうしたネガティヴな側面も、ミュンスター彫刻プロジェクトが、ホワイトキューブによる既存の価値観だけに留まらず、街全体でアートを展開するというチャレンジを続けてきたことを象徴する光景なのだ。開始以来毎回、運営として参加しているカスパー・ケーニッヒの存在も大きい。開催されるごとに見られる新たな展開に加えて、過去のアーカイブを並列して見せていく姿勢は他の芸術祭には見られない一つの特徴だ。氏が中心となって編成されるチームが2017年の現在形を40年の歴史の中にマッピングする大きな役割を担っている。

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アプリ使用の様子

前回の開催は2007年。これは初代iPhoneが発表された年である。いまや、老若男女問わず使われるようになったスマートフォンも重要な要素となっている。公式ウェブサイトに行くと、スマホ向けのアプリのリリースを確認することができる。運営側も大いに活用しているようなのだ。アプリでは作品が置かれているマップ上での位置情報や写真、テキストなど必要な情報を全てアクセスでき、また、起動時は位置情報を常に取得しているため近くに作品があることをアラートしてくれる仕組みもあるなどなかなか凝っている。自転車で回ることを推奨しているため、ハンドルにスマホを取り付けるラバー製のアクセサリーなども売っているなど、スマートフォンを片手に動き回れる体制が整っていたように感じた。

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Aram Bartholl “5V”

2017年のプロジェクトを見ていく上で、まず、そういった状況に対する一つの回答のような形を示すアラム・バルトルの作品、「5V」を見ていくのはおもしろい。アラム・バルトルはベルリンを拠点にするインターネット以降の時代を代表するアーティストだ。これまでにUSBスティックを街中に埋め込んだ「Dead Drops」やグーグルマップのピンアイコンを実際に巨大な彫刻として出現させる「Map」など、バーチャルな概念をパブリックな実際の街の中に展開する作品を手がけてきた。今回のミュンスターでは全部で3つのプロジェクトを手がけており、「5V」はその中の一つということになる。

住宅街の中に突如として現れる小さい森のような場所に位置するこの作品は、一見すると焚き火のようにも見える。しかし、木の棒の先には熱を感知するセンサーが備え付けられており、その熱エネルギーを電力に変換することでスマートフォンを充電できる仕組みになっているのだ。日本でも震災をきっかけに、電気やガスと同じようにインフラとしてのインターネットが強く意識されるようになった。この作品はそういった現代の状況をストレートに表していると言える。このような極めて原始的な方法で現代の社会を逆照射する手つきは彼らしくアイロニカルでおもしろい。沢山の鑑賞者が円形に火を囲みながらスマートフォンを充電している様子はなんとも微笑ましかった。

SNSとは少し違った、場を介した人とのコミュニケーション。スマートフォンを通して、スマートフォンなしでの生活を痛烈に意識させられるような感覚。実際にアプリを使って回っているので、バッテリーの減りも早く、本当に充電が必要な状況が生まれているというのも良かったと思う。雨ざらしの場所なので、火の管理に苦心していたスタッフも含めてコミカルで印象に残る作品であった。

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