ミラノ・デザイン・ウィーク 2017

HAPPENINGText: Tomohiro Okada

時代を動かす大量生産品による圧倒的なブランド力の実感に対し、メーカーがユーザーと寄り添うかたちでテクノロジーをチューンしたプロダクトをデザインによって提供できる可能性を示し、話題を集めたのが、日本のパナソニックによるプレゼンテーションである。大阪からR&Dを続けるパナソニックは、同じ都市圏にある京都の何百年もの伝統を持つクラフトメーカーのチーム「GO ON」と一緒になって、改めて職人性から現在の生活電器製品づくりに取り組んだ。パナソニックが電器における最先端であるなら、京都の老舗は産業革命以前の最先端であり続けた存在、先端と伝統、テクノロジーと手作業との融合である。そして、まさにテクノロジーが伝統の「わざ」を通じて「もの」を語らしめたことが評価され、「ミラノ・デザイン・アワード」のベスト・ストーリーテリング賞を受賞した。

茶筒の密閉性を活かした無線接続によるモバイル・スピーカー、氷の代わりに金属球で冷やすボトル・クーラー、IHで湯をたてる白磁の釜など、伝統が伝統足らしめる仕事の良さとデザインによる先端技術の実装力が、誰もがつくれる“MAKE”ではなく、よりオーセンティックな「もの」へと昇華させることで、企画がすぐ無数のプロダクトとなって世界を席巻する現在における「深圳的」ではない、次の電器への期待をもたらしていた。

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© Yuri Suzuki

圧倒的なテクノロジー、それを実感させてくれたのが、ロンドンを拠点とするテクノロジーアーティストのスズキユウリが手掛けた「ソニック・ペンデュラム」である。このドイツの自動車メーカーであるアウディを表象する空間的に巨大な作品は、広大な修道院の中庭に3つの列で配された振り子の振る舞いを音階として、中庭に配された360度の音場によりボーカルを利かしたアンビエントなサウンドとして、そこにいる者を包み込む。

サウンドデザインは日本を拠点とするテクノロジストの徳井直生によるもの。森羅万象ともに振る舞う数多な振り子と、その振る舞いによって無数の奏でを生み出す、聴覚と視覚で浸らせる作品は、非日常へと誘う圧倒さで強い印象を与える。

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