ロスコの作品と同様に、アド・ラインハートによる「アブストラクト・ペインティング」(1962年) は、一見するとただ黒く塗りつぶされただけのようだが、鑑賞者が位置や角度を変えることでその奥行きに潜む赤や青を発見し、この絵の持つ本当の魅力を味わえる。

Willem De Kooning, “Pink Angel” (1945), Oil and charcoal on canvas. 1321 x 1016 mm. Frederick R. Weisman Art Foundation, Los Angeles. © 2016 The Willem de Kooning Foundation / Artists Rights Society (ARS), New York and DACS, London.

次の部屋では、芸術史上の抽象表現主義がもたらす多様な表現を観ることができる。ウィレム・デ・クーニングの愛に溢れる絵画作品「ピンク・エンジェル」（1945年）と「ウーマン I」（1951-1952年）を含む６つのウーマン・シリーズが、惜しげもなく一斉に並べられている。この展覧会で唯一、純粋な抽象でも具象でもない絵画であり、さらに、キュビズム、エロチシズム、神秘主義が織り交ぜられている。

Clyfford Still, PH-950 (1950), Oil on canvas. 2337 x 1778 mm. Clyfford Still Museum, Denver © City and County of Denver / DACS 2016. Photo: © David Parry

二度の世界大戦による攻撃と侵略、恐慌と憂鬱に覆われた後、新しい芸術の力はその凝り固まった空虚に立ち向かった。その調和やバランス、明るい風景画を描く抽象芸術家によるもので、例えば、クリフォード・スティルによる記念碑的作品、「PH-950」（1950年）、「PH247」（1951年）、「PH1123」（1954年）は人間の闘いや死と創造を表している。それは、精神的な彫刻で人間の存在に焦点を当てた彫刻家・デイヴィッド・スミスと同じテーマであり、光と影のように並べられている。