オコイマツ

PEOPLEText: Ayumi Yakura

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素材として文房具屋のペン売り場で収集した試し書きの一部

文房具屋でペンの色や太さを確かめた後の試し書きは、誰かに見せるために書かれたのではなく、普通は捨てられてしまうものですね。オコイマツさんにとって試し書きの線の魅力とは?

試し書きの線の中には様々なドラマが見えるんですよね。見せると思って書いていないので、油断していて、大胆だったり繊細だったり時には文字になっていなくても達筆感が出ていたり…。他人の線を避けて書いている人も居れば、お構いなしに上からガンガン描く人も居る。「書く」と「描く」の間のような線が一番多くて、そこには他の場所では見られないような、些細な無意識の痕跡が見えるように思います。堂々と書いた線の後に躊躇のにじみがあったり、線がたまってカオスになっていたり…。

その様は、街の中、特に混雑する駅やターミナルなどでの人々の動きにも重なって見えてくる、ような気がしています。何故か線が片寄って余白になっている部分も、街を歩いていると出会うエアポケットのような唐突な空間に似ていたり…。工事現場もそうですが、街や人々の動きの痕跡や予感を感じさせてくれるモチーフが、私にとってはイメージを膨らませるインスピレーションの源泉です。

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試し書きで描いた作品(部分)

ロンドンで収集した試し書きはロンドンの、東京で集めた線は東京の風景になっていますが、試し書きの線とはその街によって違うものなのでしょうか?

違いますね。一見グルグルした線や直線の集まりで似ているのですが、よく見ていくとお国柄や都市の色が出ていると思います。ロンドンは遠慮なく派手な線を引いて、堂々と何色も使って描き込んでいる人がいる一方、日本ではインクの使用量が気になるのか、そこまで売り物のペンを使い込んでいる人は稀です。

また、もちろん言語が違うので文字も違っていて、その意味では、日本は漢字・片仮名・平仮名があるので見た目のバリエーションは広いと思いました。筆ペン売り場の試し書きなど、迫力がありますよ。絵やイラストが多いのは今の所やはり日本ですね。少し話は違いますが、名指しで告白を書いている、女子高生らしき文章があって驚いた事もあります。さすがにそれは作品に使いませんが(笑)ダジャレや川柳もありました。

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「はしの街、もしくは東京」2016年, 594 x 420 mm, 紙に転写インク

作品を見ると、マーカーやボールペンで描かれた様々な線で、雲から降る雨、強い日射し、木、家、自転車などが賑やかに描かれています。どのように一枚の絵を仕上げていくのでしょうか?

このシリーズでは100%「誰か」が書いた線の転写や模写で構成していて、私自身の故意の線はないのですが、どこにどの線を配置するかはかなり考えながら進めます。最初は、都市ごとにまとめた試し書きメモを床に広げて、全体を見渡して何が見えてくるか、その都市のイメージをある程度広げます。

そこから、白紙の紙やキャンバスに、気になったカタチや線を先に配置していって、増殖するように広げていくのですが、途中である部分が木の一部のように見えてきた、と思ったら木が完成するように、木の他の部分を試し書きの中から探して当てはめて行きます。

イメージを引っ張っていくのはやはり試し書きの線の方ですね。どこの誰か分からないけれど、不特定多数の方々と、私とのコラボレーションで成り立っています。強引、無許可の強制的なコラボレーション(笑)

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「島の礼文週間ー3週目、もしくは岩で勝負」2016年, 105 x 160 mm, 紙にペン

礼文島のスケッチを見ると、風景を写実的に描写する技術もお持ちなのだと分かりますが、なぜ自分の線ではなく、他者による試し書きの線で描いているのですか?

学生時代から線に興味があって、自分の手によるドローイングを描く時も、意識と無意識の狭間に在るような線を探っていました。ロンドンの工事現場に注目している時は、現場のベニヤ板や壁面に現れる、おそらく基準やアタリのために書く線や記号や「しるし」が気になっていました。

その後、ロンドンの家壁や高架下に描かれるグラフィティに注目したりもしましたが、もっと無意識に近いような線がないか…と探しているうちに試し書きを集めてみようという気になりました。自分自身の線で無意識というと限界があり、半分気絶して描くしかなくなるので(笑)自然と外に求めるようになりました。

何故無意識に近いモノがいいのか?と言われると難しいのですが、自分や他人が「意図していない」「知らない(と思っている)」部分にこそリアリティがあるような気がしているから…ですかね。自分の後ろ姿を写真で見たり、テープに撮った声を聞いた時に、変な声!これが現実か!と思うショックに似ているかもしれません。


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