第18回 文化庁メディア芸術祭

HAPPENINGText: Takashi Ichikawa, Mariko Honjo

マンガ部門で大賞を受賞した「五色の舟」は、津原泰水原作の幻想譚が、近藤ようこによってマンガ化された作品だ。太平洋戦争末期を時代背景に、見世物小屋の一座として糊口をしのぐ、異形の者たちの「家族」の運命が描かれている。戦時下の広島、見世物小屋、異形の者たち、と並べてみれば重くハードな物語に収束してしまいそうな設定であるが、この家族の生への貪欲さ、生活していくためのしたたかさ、は読んでいてとても清々しい。

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近藤ようこ・津原泰水/ KADOKAWA刊 © Youko Kondo/Yasumi Tsuhara 2014

近藤ようこによって描かれる、細やかに感情表現された人物たちの表情も、この作品を品のよい幻想的な作品に仕立てている。戦後70年となる本年、おそらく各メディアが様々な形で再び太平洋戦争を取り上げるだろう。そんな中、今作のマンガ部門の大賞受賞は、あの戦争を語る上でこういう切り口もあるのだ、ということを世間に伝える恰好の機会になったのではないかと思う。

今回展示された受賞作を見ていて印象的に感じられたのは、作品と鑑賞者の間にインタラクティブな行為を介することで、鑑賞者は作品との間に自身の様々な事象(日常の風景や、行為等)を無意識に共有していることだった。それにより、鑑賞者はアートを理解して陶酔し、そして、その感覚を心地いい感覚で裏切られる。鑑賞者は作品を通じて新たな発見を感じ、作品を見終わると、また現実世界に戻ってくるが、日常風景が今朝見たときとは違った感覚で見えるのは不思議な感覚だ。

今回取材した日は入場制限がかかるほど多くの人が足を運んでいたが、今後も国内外のクリエイターによる作品に触れることによって、新しい発見や驚きを感じられる機会が得られるこのメディア芸術祭を、ぜひ、より多くの人に触れていただきたい。

第18回文化庁メディア芸術祭受賞作品展
会期:2015年2月4日(水)~15日(日)*2月10日(火)休館
時間:10:00~18:00 ※金曜日は20:00まで、入場は閉館の30分前まで
会場:国立新美術館、シネマート六本木、スーパー・デラックス他
※開館時間、休館日は会場によって異なります。
入場:無料
主催:文化庁メディア芸術祭実行委員会
TEL:03-3535-3501
https://j-mediaarts.jp

Text: Takashi Ichikawa, Mariko Honjo
Photos: Takashi Ichikawa, Mariko Honjo

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