第18回 文化庁メディア芸術祭

HAPPENINGText: Takashi Ichikawa, Mariko Honjo

dinnerscene_001.png毎年多くの来場者が詰め寄せる第18回文化庁メディア芸術祭が、今年も2015年2月4日(水)から2月15日(日)まで開催されている。

乃木坂にある国立新美術館をメインに、シネマート六本木、スーパーデラックスで作品の展示、イベントが開催されており、さらに、ライブストリーミングチャンネル「DOMMUNE」でも関連番組が配信中だ。

今年は世界71の国と地域から3,853点の作品の応募があり、なかでも国内応募数が過去最多の2,035作品となった。それらの応募作品の中から、アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門における受賞作品が中心に展示されている。

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五島一浩「これは映画ではないらしい」展示風景

最先端の技術やデバイスをアートに取り入れた作品が目立つ中、アート部門で優秀賞を受賞した五島一浩の「これは映画ではないらしい」は、二眼レフカメラ、光ファイバーの束、フィルム、といった、映像を扱う世界においてはとてもプリミティブな素材によって構成された作品だ。

従来の映画や動画を成立させる「コマ(静止画)」の連続ではなく、「コマのない動画カメラ/映写機」によって「動画」を生み出すという実験的な試みをしている。二眼レフカメラの撮像面に324本の光ファイバーを格子状に並べ(これが324画素のドットの役割を担う)、イメージを画素という情報としてフィルム上に記録する。ファイバー1本の光の明度や変化が1本の線として露光され、またそのフィルムが再生されるという仕組みだ。これにより撮影・再生された動画は、独特の暖かみのあるざらついた質感に仕上がっている。

新しい技術、鮮明でリアリティを追求した映像が次々と世に放たれていく中、いま一度従来のデバイスを見直し、根本的な「動画」の定義を問いただすことで、新たな映像表現を模索しようという、とても骨太な意欲作だ。

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Alex VERHAEST 「Temps mort / Idle times – dinner scene」展示風景 

今年のメディア芸術祭において、インタラクティブアートを鑑賞している人の、驚いたり、笑ったりする様子が多見されたことは、特に印象的に感じられた。なかでもアート部門で新人賞を受賞したアレックス・ヴェルヘストの「Temps mort / Idle times – dinner scene」は、独特な雰囲気があった。

その作品は、大きなモニターに古典的な絵画様式で表現された家族の風景が映し出され、さらにその周りには家族一人一人が映し出された複数のモニターがあり、それらすべてが一つの物語として構成されている。大きなモニターの前には電話番号が掲示されており、鑑賞者がモニターの前で電話をかけると、作中に描かれた電話が反応し、それをきっかけに映し出された家族の会話が始まる。

鑑賞者が作中の家族に電話をかけるというインタラクティブな行為により、鑑賞者が作中の家族の一人と関係を持っている感覚をもつ。あたかも自分発信で始まった作中の家族の会話が、妙に他人事と思えないものとして感じられ、当事者となった鑑賞者は不思議な世界へ入り込むことになる。

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Google’s Niantic Labs 「Ingress」展示風景

エンターテインメント部門で大賞を受賞したのは、Googleで社内企業したプロジェクトである、Google’s Niantic Labs(ナイアンティック・ラボ)の「Ingress」。この作品は現実世界における観光スポットや建築物、近所の公園など、実在する場を利用し、世界中のユーザーが同時参加して陣取り合戦を繰り広げるモバイルアプリケーションである。

今回の展示では、3つの「ポータル」と呼ばれる陣取り合戦を行うポイントをメディア芸術祭が開催されている国立新美術館内に設定し、ユーザー(ここでは鑑賞者をユーザーと呼ぶことにする)がそのポータルを取り合う様子がインスタレーションとして、展示空間に表示される。

展示空間に入ると、ユーザーは作品自体を見ているというよりは、自分のスマートフォンを見てまさに「Ingress」を楽しんでいる最中であり、ユーザーが展示空間で作品を楽しんでいる姿こそが、この作品の展示を補完している感じを覚える。
このアプリケーションを利用していない筆者にとっては、ユーザーが展示空間にいればいるほど、展示作品が鮮やかに見えてくる様子が俯瞰して見えて、とても印象的だった。

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下浜臨太郎/西村斉輝/若岡伸也「のらもじ発見プロジェクト」展示風景

エンターテインメント部門で優秀賞を受賞した「のらもじ発見プロジェクト」(下浜臨太郎、西村斉輝、若岡伸也)は思わず顔がほころぶ作品だ。

この作品は、町のいたるところで目にする少し古びた商店などの看板文字を「のらもじ」と称し、その形状を分析し、コンピュータで使用可能なフォントを制作するというものだ。そのフォントはウェブ上で配布され、ユーザーはダウンロードのうえ「のらもじ」を使うことができる仕組みとなっている。

今回の会場では、スクリーンに看板を携えた商店の写真が映し出されており、来場者はキーボードで好きな文字をその看板部分に入力することができる。古き良き商店街の風情や、レトロな看板を、単にノスタルジックな鑑賞物として写真や映像に残すことは、かつていくらでも行われてきただろう。しかしこの作品はそこに留まらない。日々パソコンに慣れ親しんでいる私たちが気軽に取り入れられる「フォント」という形式に落とし込むことで、かつて名もなき看板職人たちが世に放った作品は、いつまでも私たちの生活の中で生き続ける。

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近藤玄大/山浦博志/小西哲哉「handiii」展示風景 

エンターテインメント部門で優秀賞を受賞した「handiii」は3Dプリンターで作られたパーツとスマートフォンを利用した「気軽な選択肢」をコンセプトにもつ筋電義手である。

筋電義手とは、人間が体を動かすことで発生する微弱の電位を利用して、擬似的に本人の意思によって手を動かすことを再現するものだが、今までは義手といえば、人肌に似せて作られていることが多い。この「handiii」は色やパーツを自分の好みに変更できることから、ファッションとしての要素を兼ね備え、指先にICチッブやマイクを組み込む等の拡張性があることで、手を超えた手といえる存在になる可能性も感じられる。

近年、時計やメガネといったウェアラブルデバイスが続々と開発されているが、義肢というものがそれらを必要としている人にとって、その動作を補完する役割以上に、着用している姿が羨ましいと思われる未来がくる可能性を秘めていると思わせる美しいフォルムの作品だった。

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Anna BUDANOVA「The Wound」展示風景 

アニメーション部門の大賞に選ばれたのはアンナ・ブダノヴァが心の傷に苦しむ少女を描く「The Wound」。作品は主人公の少女が空想の中で描いた、毛むくじゃらの生き物(=ウーンド)が心の傷の権化として現れ、ともに成長していく様子を描く。

作品で描かれた線の躍動感や様々に持ち入られている効果音は鑑賞者の心を動かし、ウーンドの大きさの変化によって、主人公の心情がダイレクトに伝わって来る。ウーンドと主人公が食卓を挟んで座るシーンがあるが、ウーンドの大きさは今まで受け止めてきた心の傷の大きさであり、その大きさこそが自分の人生であると受け入れて生きているシーンのように見えて、とても心が引き寄せられる作品だった。

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高橋渉「映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」展示風景

アニメーション部門で優秀賞を受賞した高橋渉の、映画クレヨンしんちゃん「ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」は子どもだけでなく、大人も楽しめ、心打たれる良質なアニメーション作品に仕上がっている。

父権社会や、家庭内の父親のアイデンティティーといった、普遍的で、ともすればシリアスに収束してしまいそうなテーマを扱いながらも、当アニメーションシリーズらしいギャグが随所に挟み込まれ、決してシリアスになり過ぎず、笑えて、そして最後には感動できる作品になっている。そのバランスが素晴らしい。

ストーリーのみならずアニメーション特有の、見ていて心地の良いキャラクターの動きやフィクショナルな描写もこの作品の魅力だ。特に終盤の、湯浅政明によってデザイン、作画されたロボット・バトルシーンは圧巻。思わず吹き出してしまいそうな一見ナンセンスな設定であるが、独特の線のタッチと色彩により、画面に釘付けになってしまう。アニメーションにおける、ロボット・バトルシーンの新境地と言っても過言ではないだろう。

クレヨンしんちゃんは、もう何十年も続いてきたアニメシリーズでありながら、未だにこうして画期的な試みを積極的に取り入れていこうとする、作り手達の熱量の高さに感動を覚えた。

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近藤ようこ・津原泰水/ KADOKAWA刊 © Youko Kondo/Yasumi Tsuhara 2014

マンガ部門で大賞を受賞した「五色の舟」は、津原泰水原作の幻想譚が、近藤ようこによってマンガ化された作品だ。太平洋戦争末期を時代背景に、見世物小屋の一座として糊口をしのぐ、異形の者たちの「家族」の運命が描かれている。

戦時下の広島、見世物小屋、異形の者たち、と並べてみれば重くハードな物語に収束してしまいそうな設定であるが、この家族の生への貪欲さ、生活していくためのしたたかさ、は読んでいてとても清々しい。

近藤ようこによって描かれる、細やかに感情表現された人物たちの表情も、この作品を品のよい幻想的な作品に仕立てている。戦後70年となる本年、おそらく各メディアが様々な形で再び太平洋戦争を取り上げるだろう。そんな中、今作のマンガ部門の大賞受賞は、あの戦争を語る上でこういう切り口もあるのだ、ということを世間に伝える恰好の機会になったのではないかと思う。

今回展示された受賞作を見ていて印象的に感じられたのは、作品と鑑賞者の間にインタラクティブな行為を介することで、鑑賞者は作品との間に自身の様々な事象(日常の風景や、行為等)を無意識に共有していることだった。それにより、鑑賞者はアートを理解して陶酔し、そして、その感覚を心地いい感覚で裏切られる。鑑賞者は作品を通じて新たな発見を感じ、作品を見終わると、また現実世界に戻ってくるが、日常風景が今朝見たときとは違った感覚で見えるのは不思議な感覚だ。

今回取材した日は入場制限がかかるほど多くの人が足を運んでいたが、今後も国内外のクリエイターによる作品に触れることによって、新しい発見や驚きを感じられる機会が得られるこのメディア芸術祭を、ぜひ、より多くの人に触れていただきたい。

第18回文化庁メディア芸術祭受賞作品展
会期:2015年2月4日(水)~15日(日)*2月10日(火)休館
時間:10:00~18:00 ※金曜日は20:00まで、入場は閉館の30分前まで
会場:国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)
上映:シネマート六本木(東京都港区六本木3-8-15)
マンガライブラリー会場:スーパー・デラックス(東京都港区西麻布3-1-25 B1F)他
※開館時間、休館日は会場によって異なります。
入場:無料
主催:文化庁メディア芸術祭実行委員会
TEL:03-3535-3501
http://j-mediaarts.jp

Text: Takashi Ichikawa, Mariko Honjo
Photos: Takashi Ichikawa, Mariko Honjo

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